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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
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大きなもの

―城下町 夕刻―

 その状態の彼女の攻撃を受け止めるのは危険だと本能的に感じ、僕はすんでの所で体を地面に伏せた。彼女が、僕の上を通り過ぎていくのを感じる。僕の体と彼女の体が少し擦れて、摩擦が生じたのか背中が熱くなった。


(この体勢のままでは危険だ……急いで起き上がらなければ)


 しかし、不要に体を上げることもまた危険を伴う。彼女は僕の足下の方向へと向かって飛んで行った。背後の正確な状況を確認することが困難だ。起き上がった瞬間、あの危険そうな体当たりを食らってしまう危険性もある。


(こういう時こそ集中しないと)


 第六感を働かせる為、意識を背後へと集中させていく。


(感じる……いつも以上に鮮明に)


 空気の流れに反して、一つの大きな物体がこちらに向かってきているのを感じた。空気の流れのぶつかり合い、そして人の匂いが近づいて来ていることからそれは明確だ。

 集中するのをやめて、あることを確かめる為に体を横に転がした。寝転がったままの体勢で、先ほどまで僕がいた位置を見つめる。

 すると、軌道に乗るようにして女性がそこを通過した。普通に見るだけでは何が通ったのかは理解出来ない。僕が理解出来たのは、状況的に女性しかいなかったからだ。これで分かった。彼女の弱点が。


「少しだけ楽しめたよ……でも、君と遊んでいる時間はない。もう行かなきゃ」


 すぐに、彼女がこちらに突進し始める。今度は真正面から。


(誰かに当たれば衝撃はある。でも、これで自分自身が損傷してしまうことはないのだろうか……)


 しかし、彼女を見ればすぐにその謎は解けた。彼女は全身が血塗れだ。それは、武者達のものでもあったかもしれないが――。


「おっと!」


 色々考えている間に、今度は僕の目の高さから突進してくる。まともに考える時間を与えてはくれないようだ。


(自爆型か。それに自分の身を守る為だとか言っていたが、このやり方ではそれに反しているような……最悪死んでしまう可能性だってあるし)


 彼女がまたこちらに迫って来ているのを感じる。血の匂いが、僕を狂わせそうなほど強くなってきている。つまり、彼女が何らかの傷を僕への攻撃の間に負い続けているということになる。それによって、攻撃を避けやすくはなった。

 僕は仕方なく魔法を使い、舞い上がった。しかし、つま先と彼女の頭が一瞬ぶつかってしまった。すると、履いていた靴のつま先部分がなくなってしまった。


「あ」


 両足の指と一緒に。意識全部持っていかれてしまいそうな痛みに、歯を食いしばってそれを防ぐ。


(呑気に考えてはいけない相手ってことか……仕方ない。ホヨから貰っていたあの山の肉を後で食べよう)


 痛みのことを考えるのはやめた。指を失ったくらいの痛みで、目の前の戦いを疎かにする訳にもいかない。それにもう弱点は見抜いたのだ。

 また彼女が僕の目線に合わせて、同じ速度で飛んでくる。弾丸のようにして向かってくる前までは、僕の様子を理解出来ているということになるだろう。


「でも、今目の前で起こっていることは分からないんだよね」


 もし僕が幼い頃から鍛錬を積んでいなかったら、この化け物の力がなかったら。もうとっくに死んでいたかもしれない。精神的にも肉体的にも。

 少しだけめまいがする。絶対にここで終わらせてやる。終わらせなくてはならない。

 足の指に触れて、血をつけた。真正面から来てくれているのが助かる。よりいっそう、強い呪術がかけられる。


(君よりもっと大きなものを……守らないといけないんだ)


 彼女に向かって手を向け、叫んだ。


「亀の呪いにその身を捧げよ!」


 瞬間、僕の手から放たれた真っ黒な煙が彼女を飲み込んだ。その煙の中から、彼女が出てくることはなかった。待てば出てくるだろうが、そんなことをしていたら何年経ってしまうか分からない。

 僕は用意していた肉を頬張りながら、煙の中へと入った。

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