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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
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体を武器に

―城下町 夕刻―

 僕は、城下町をただひたすらに走り抜けていた。飛べば一瞬であるのだが、如何せん魔力及び体力の消費が激しい。飛び続ければ辿り着いた時には、錘同然になってしまった体を武器に戦わなくてはいけなくなる。雑魚はそれでも倒せるだろうが、それ以外は苦戦を強いられる。

 ならば、急がば回れ。最低限の体力の消費で港へと急ぐことにした。


(箒持ってくれば良かった……まぁ、いいか)


 今の僕の目的は、明星 樹に直接勝つこと。それで完全に睦月に関すること全て終わらせる。睦月のことはなかったことにする。僕の作った認識を強制的に受け入れさせる。これを世界全体の歴史に加える。

 

(ん?)


 道の先に真っ赤なものが立っていた。その周りには、武者達だったものが転がっている。辺り一面が真っ赤で、まるで最初からそうであったように錯覚させられてしまう。

 僕がそれの目の前まで辿り着いた時、真っ赤なものの正体が分かった。建造物のように立っていたそれは人であったのだ。体格的に見た感じ、女性であるようだ。


「薩摩の者か?」


 そう聞いてみても返答はない。微動だにしない。瞬きもせず、像のように固まっている。しかし、生きているのは感じる。そして、これをやったのは目の前の女性だ。


(つまり……殺るしかないってことだね)


 時間の無駄にもほどがあるが、これを放置する訳にもいかない。散らされた命の分まで僕がやらなくてはいけないのだから。

 僕は剣を鞘から出した。その剣を女性の首元へと近づけていった時だった。


「ごめんなさい……ここで貴方を殺さないとあたしが殺される」


 かけられていた呪縛が解けたかのように、女性はそう言葉を発し、首元に迫っていた刃を座り込んで避けた。


「動けるんだ」

「生命の危機を感じましたので」


 女性の言葉には一切の訛りがなく、聞き取りやすかった。この女性は薩摩国出身の者ではないのだろうか。


「生命の危機を感じたから、彼らを殺したの?」

「そうなります。あたしだって死にたくありませんから」

「随分と派手にやってくれたみたいだね」

「バラバラにしないと、完全に死んだとは思えないのです」


 そう言って女性は近くに転がっていた、武者の首を持ち上げた。その武者の顔には、その瞬間の苦しみが完全に残っていた。目を見開き、何か言葉を発そうとした痕跡。まだ若い、家族か恋人かそんな存在もいるだろう。しかし、死んでしまったのは自己責任だ。己の弱さ故、同情の余地はない。


「凄いねぇ……バラバラになり過ぎてて分からないけど、首を数えたら十人か」


 戦い慣れているとは思えない。しかし、目の前にある全ての証拠が彼女の仕業であると伝えている。


「後でちゃんと洗い流さないと……あの子が苦しみます。でも、今は貴方をどうにかしないといけませんね。だってあたしを殺そうとしたんですもの。あたしの命を奪おうとした……つまりあたしに殺されても文句ないってことですよね。明星様に……貴方の首を!」


 彼女は魔法や剣を使わなかった。その代わり、その体を弾丸のようにして僕に突っ込んできたのだ。

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