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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十八章 掌の上で
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嫌な予感

―城下町上空 夕刻―

 黒い塵が散っていく。風に乗って舞うのもあれば、そのまま下に落ちていくのもある。二十人近くいたはずなのに、もうそこには何もない。人の存在を僕が燃やした。


(これが……)


 自身の手を見つめる。先ほどまで真っ赤な炎を放っていたというのに、そんな気配は一切感じさせない。改めて実感する、命の儚さと脆さを。


(人を殺すということか)


 人を殺した後、何も残らなかった。多くの人の命をこの手で奪ってしまったのに、何も感じない。


(天国には行けないな……いや、そもそも僕みたいな存在が天国に行くことを許される訳がないよね)


「巽様! 勝手に御一人で行かれては困ります!」


 振り返ると、そこには陸奥大臣がいた。その手には血のついた刀が握られていた。


「あぁ~……ごめん、それより他の部隊も来ているのか?」

「いえ、そうではありません。私が巽様の後を追おうとした瞬間に、はらわたが飛び出た奇妙な女が現れましてな……斬り捨てても斬り捨てても倒れず、悍ましい存在でありました。しかし、先ほど突然苦しみだしましてな。まぁ、倒すことが出来たので、特に気にすることはないかと。それより巽様、あの箒の集団はどこへ……?」

「燃やした」

「え!?」


 何故か、陸奥大臣は驚きの表情を浮かべた。


「戦いなんだから当然でしょ? 勝者が生きて、敗者が死ぬ」

「それはそうなのですが……」

「何? もういいかな、港の方に行きたいんだけど」

「幼い頃に言われていたことを覚えておられますか? その時から、ずっと巽様はそれを実行しているのだと思っていたのですが……」


 陸奥大臣は寂しそうに僕を見つめた。


(幼い頃なんて……僕にはない。その記憶はどこかに行ってしまったよ)


 幼い頃に言ったことなど、確かなことではない。嘘をつくのと一緒だ。どんなことを言ったのかは分からないが、今の今まで無自覚にそれを実行していたらしい。


「覚えてない。知らない」

「そうですか……」

「今は昔に浸ってる場合じゃないよ。僕達がこんなことを話している間にも、仲間の誰かが苦しんでるかもしれないのに」

「申し訳ございません。ここは今は戦場、精神統一が完璧ではなかったようです」


(戦場……か)


 城下町を見下ろす。先ほどまで、穏やかであったとは思えないほど物々しい。武者が神妙な顔つきで、周囲を警戒している。


「甲斐国の方から馬に乗った集団が現れた! 相手の数は数千! こちらは明らかに劣勢! 応援を求む!」


 白い純白の羽を持った女性が声を使って、城下町に響かせる。


「陸奥大臣、君なら一人で千人くらい大したことないでしょ? 頼んだよ」


 陸奥大臣の肩を叩いて、僕は港の方向へと向かった。

***

―ゴンザレス 廊下 夕刻―

 夕陽が窓から差し込んで、光と闇を分断している。光の当たっている場所と光の当たっていない場所は隣り合わせなのに、こんなにも違う。


(小鳥はまだか……)


 医務室以外に何があるのか、さっぱり分からないここで小鳥は用事があると急いで消えてしまった。かれこれ三十分は待っている。


(待たされるのは嫌いじゃないぜ……ハハ)


「小鳥!? 小鳥ー! どこにいるの! 小鳥!」


 廊下の向こうから、声を枯らした女性の声が聞こえた。小鳥というワードに驚いたが、その女性が探しているのは子供の方の小鳥だろう。姿が完全にシルエットになっているが、その人物が誰であるかは分かった。


「おーい! どうかしたのかー!」

「その声は……ゴンザレス様!」


 俺は急いでその女性――小鳥の母親の所へ駆け寄った。


「城の地下にいろって言われてるんだろ? そこに小鳥いるんじゃねぇの」

「いないのですよ、それが!」

「なんで?」

「私が聞きたいですよ!」

「ここの地下ってかなり広いじゃん。見つけられてな、っ! 痛い、痛い!」


 言葉の途中に、俺の腕を母親は力強く掴んだ。爪が食い込んで痛い。眠気があったら、いい眠気覚ましになっただろう。


「必死に何度も何度も探しましたよ! でも小鳥の姿は――」

「いやぁぁああああああ!」

「興津さんの声? なんかあったのか? てか、あの人も地下にいねぇのかよ……」


(命令聞かないと痛い目見るだろ……ま、俺もか)


「医務室の方……急ぎましょう! なんとなく嫌な予感がするのです」

「お、おう」





 医務室の扉の前で、興津さんが大粒の涙を流しながら座り込んでいた。それを見て、何となく胸騒ぎを覚えた。

 そして、恐る恐る医務室を覗き込むと、そこには――血の海に倒れる真っ青な藤堂さんと剣を持って倒れている子供の小鳥がいた。嫌な予感は見事に的中してしまったのだ。

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