何でも
―自室 昼―
ホヨは尻尾を下げて、萎れた花のようになってしまった。
(どうしてだろう。まぁいいや)
僕は鏡の前に移動する。確かに、僕の瞳は黄色く輝いていた。勿論、普段の僕の瞳の色は黒だ。すぐに皆にバレてしまう訳だ。
鏡に近付いて、目を凝らし自身の瞳を観察する。まるで、最初からその色であったかのようだ。
「ハハ……」
乾いた笑いが零れる。
(もう治せないのかな。僕が少しずつ化け物に向かってる……また段階が一つ進んで、今度は体にしっかりと現れたのかもしれない)
鏡に手を置いて、さらに目を覗き込む。すると、鏡が僕の息で白く染まった。僕が自身の目を確認することを、拒んでいるように感じた。
(馬鹿らしいな、どうせ見た所で何も変わらない。現実を見せられるだけだ)
僕は鏡に背を向けて、再びホヨに視線を向けた。ホヨは相変わらずの様子だ。
「ホヨ、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何ホヨ?」
ホヨは耳をピクッとさせて、顔を上げる。
「山口村の方はどうかな? ちゃんとお金になってるかな」
「ホヨは毎日届けてるホヨ。全部ではないけど、質屋で売ってる姿を見たホヨ」
「そうか……それならいい」
「二人と巽は一体どんな関係ホヨ?」
ホヨからのその質問に、走馬灯のように思い出が蘇った。苦しみも楽しさも、共に分かち合ったあの日々を。
僕が泣いている時は、優しく手を差し伸べてくれた睦月。睦月の背後から楽しそうに笑っていた東。そんな二人が我が儘で、城から逃げ出した。僕はそれを見逃して、二人が生きて行けるようこっそりと支えている。
僕と今の二人の関係は一体なんなのだろう。もう姉弟でもないし、主従関係でもない。でも、もしあえてこの関係に言葉を飾るのなら――。
「保護者かな」
偉そうな言葉だ。僕には似つかわしくない言葉。でも、僕は二人との関係をこっそり一方的に勝手に続けている。家族でも何でもない、そんな縁を切るような発言をしておきながら本当に情けない話だ。
「そうホヨか……」
少しの間、無言の時間が続いた。そんな中、ホヨをずっと見ていて思い出した。ホヨは「何でも出来る」そう言っていた。
「ホヨ、君はなんでも出来るんだよね?」
「当たり前ホヨ!」
垂れていた尻尾が元気良く上を向き、耳が激しく上下し始める。
「本当に?」
「本当ホヨ!」
「そうか……フフ」
(いいことを思いついたぞ)
薩摩国が数の力で圧倒するのなら、当然数の少ない僕らの国は負ける。しかし、勝つ手段がない訳ではない。勝つ為ならば、どんな卑怯な手だって使おう。それが、この国を守るための最善の策になる。
「ホヨ、今から薩摩国に行って来てよ。それでね――」