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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十七章 迫る危機
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友達とは程遠く

―自室前 昼―

 陸奥大臣に命令し終えた後、僕は自分の目の様子を確認する為に部屋の前へ来ていた。


(どうやったら治るんだろう?)


 目を押さえてみる。特に痛みなどの異常は感じられない。しかし、この状況を放置し続けるのは良くない。直感的にそう感じた。

 この国の人間はともかく、外国から来た人間達はすぐに人を疑い信じない。僕にとって不利だ。


(とりあえず中に入って――)


 そう考えながら、扉の取っ手を引っ張った時だった。


「ホヨー!」

「うぐぅ!?」


 扉の隙間から、黒く大きな物体が勢い良く飛び出して来た。その物体は僕に飛びついて、視界を真っ黒に染めた。


「息が苦しいっ……!」

「会いたかったホヨ~! 久しぶりホヨ~!」

「分かった、分かったから!」


 僕は、何とかその黒い物体を引き剥がす。大型犬みたいなのに突然、飛びつかれると体勢を保つのが大変だ。


「巽ー!」

「と、とにかく部屋の中に入ってくれ……ここじゃ色々アレだから」


 僕はホヨを飼っていることを誰にも言っていない。これからも言うつもりなどない。


「分かったホヨ!」


 ホヨは僕から離れて、少し開いた扉の隙間から部屋へと入って行った。四本足で走って行くその姿は、まさに犬だ。


(犬って言ったら怒るけど……やっぱりどっからどう見ても犬だ)


 そんなことを考えながら、ホヨの後を追って部屋に入った。


「僕が入る前からいるって分かってたの?」

「当たり前ホヨ! だって、く……巽の”におい”は分かりやすいホヨよ」

「分かりやすい、か」


 嗅覚で判断しているのなら、やはり犬なのではないかと思う。言わないが。


「それより巽……その目はどうしたホヨ?」


 ホヨは俯いた。


「あぁ……これはオシャレだよ。いいだろう? ホヨは気にしなくていい。そういえば、亜樹の方はどうかな」


 僕は満面の笑みを作った。


「亜樹は、文字を使いこなせるようになったホヨ!」


 ホヨは、顔を上げて嬉しそうに笑った。


「毎日ちゃんと行ってるんだね」

「勿論ホヨ! 亜樹と一緒に過ごすのはとっても楽しいホヨ」

「そう……それは良かった」


 怪我をしていた僕を見つけ、助けてくれた彼女には感謝している。正直、見捨ててくれても構わなかった。それでも良かった。

 だけど、一応命であることに変わりはない。だから、これは恩返し。


「それと同時並行の狩りも順調?」

「順調ホヨよ、だけど……」

「だけど?」

「最近、獲ってきた獲物の減りが凄く速い気がするホヨ……一体何に使ってるホヨ?」


 そう言うと、再びホヨは俯いた。


「ホヨには関係ないだろう? 黙って僕の為に、動物を狩ってくればいいんだよ」


 どうしてホヨが一々そんなことを聞いてくるのか分からなかった。


「ホヨ……」

「出来るよね? 僕の命令は絶対なんでしょ? これは命令だよ、ホヨ」


 そう、主の命令はフィデリタス種にとっては何よりも重要。そこにホヨの意思は一切関係ない。僕らは友達である前に、主従関係で結ばれた存在。

 だからこそ、僕は薄々感じていた。この関係はきっと本来の友達とは程遠いものなのだと。


「分かってるホヨ……」


 何かを押し殺すような声で、ホヨはそう呟いた。

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