最高に最高な日
―夕景の間 昼―
「小細工って……?」
「戦艦を不良品にしたんじゃ! 上手いこと機能せんようにの!」
「え? それってかなり大問題なんじゃ……」
技術力が国の売りなのに、そんなことをしては信用にも関わってくるのではないだろうか。
「薩摩国の現当主は、横暴そのものでのぉ……圧倒的武力を盾に好き勝手言ってくる。余も周辺の国々もうんざりじゃ。な~に大したことはない。普段の行いが悪いと壊れると注意事項にも記載したしのぉ。それで造ってくれとほざくんじゃから……」
西の方のことはよく分からない。さらに、忍者達が死んで他国の情報が入りにくくなった。同盟国のほとんどが東に集中している為、西の情報を知る機会は安芸国くらいしかない。
「彼らはいつ来るんだ?」
「もう来るじゃろ」
「は!?」
(待て待て待ってくれ! 滅茶苦茶過ぎやしないか!? もうほとんど不意打ちだろ、こんなの!)
「じゃけぇ、余が協力しちゃるって」
「協力って言ったって、こっちは数が少な過ぎる!」
薩摩国の力を百とするならば、僕の国の力は十だ。数があまりにも違い過ぎる。こんなの無茶だ。
「やってみんと分からんじゃろ?」
「一か八かって……国の未来がかかってるのに、そんなこと――」
「無抵抗でやられたいんか?」
慊人は僕を睨みつけた。
「それは……」
「やられとうないよのぉ!? 国としても、王としても、男としても恥じゃ! やらずして負けるのは最悪じゃ! 巽……お前はあの頃とは違うんじゃろう?」
(そうだ……もしここで怯んで何もせずに負けたら永遠の恥だ。やってみないと分からない……もしかしたら、意外と相手は僕よりも弱いかもしれない。数はあっても、僕よりは――)
「それにさっきお前をひさしぶりに見た時に思ったんじゃ……一緒に戦ってみたいとの」
「前会った時は、僕みたいな奴とは一緒に戦いたくないって言ってたじゃないか」
思わず笑いが零れ出る。戦いごっこをやらされて、一方的に殴られた後に言われたことだ。
「じゃけ、言ったじゃろうが! 今のお前なら一緒に戦ってみたいとの。昔のお前はただのサンドイッチじゃ!」
慊人は、僕を指差して自信満々に言った。
「サンドイッチ……? うぇ……」
白いパンに卵と野菜が挟まれた物が脳裏に浮かんだ。ただ、それは想像するだけで不味くて吐き気が込み上げてくる。
(昔の僕って……食べ物? どういうことだ?)
――馬鹿馬鹿しい会話だ。反吐が出る――
その声がするのと同時、激しい頭痛が僕を襲う。
――情けない奴。そんなのだからいつまで経っても追いつけない――
「ううっ……」
世界が眩む、歪んでいく。
――あいつのいいようにはさせない。僕が弱い巽の代わりにやってやる――
「あん? 大丈夫か? おーい、聞いちょんか? われぇ!」
「……聞いてるよ。はぁ……少しは静かに出来ないの? まぁいいや、それより楽しみだねぇ。フフフフ……ゾクゾクする」
人々の悲鳴、嘆き、唸り声、怒声。無差別に流れる血、涙、崩壊する建物、人。想像するだけで気分が高揚する。今日は最高の日だ。