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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十七章 迫る危機
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同盟関係

―夕景の間 昼―

「いい椅子じゃのぉ、確かソファーって奴じゃたっか?」


 慊人は、身を完全にフワフワの椅子に身を預けている。その柔らかさと快適さに感動している様子だ。


「うん」

「えぇのぉ、これ買おうかの」


 生地の感触を確かめるように、それに手を何度も擦り付けている。


「海外の国とも貿易してるんだったら、もう持ってるのかと思ったよ」

「余の国が貿易しちょるのは、武器とかそういうのだけじゃけぇ。生活用品までは中々の……」


 慊人は肘かけに寄りかかる。


「そういえば、話変わるんだけど……」

「なんじゃ」

「使用人は……いないの?」

「おったら自由に出来んじゃろうが、馬鹿かお前は」


(なんで怒られないといけないんだ……)


 今この部屋にいるのは、僕と慊人だけ。それを慊人が望んだからだ。使用人が入って来ることも、聞き耳を立てることも許さないらしい。


「戦艦を守って貰うだけで十分じゃ、使用人なんぞ」

「え、戦艦?」


(待ってくれ、戦艦で来たのか?)


 そんな物騒なものでこられたら、変に記者達が勘ぐって訳の分からないデタラメ記事を書かれてしまう。それに対応しないといけないのは、こっちなのに勘弁して欲しい。


「ぶちカッコいいんじゃ! 男心を擽る最高の出来でのぉ……職人達はようやってくれたと思うわ。折角の機会じゃけぇ、乗って来たんじゃ!」


 慊人は満面の笑みだ。新しい物を早く使いたいという気持ちは理解出来る。でも、戦艦はやめて欲しかった。


「そうかい……よく一人でここまでこれたね」

「小さい頃来た道くらい覚えとるわ! 舐めちょんか?」

「舐めてないよ……記憶力がいいんだね」


 十歳の頃、しかも一度だけしか来ていない。道も変わっているかもしれないし、街並みも変化しているだろう。

 それなのに、辿り着くとは見事であると思う。僕も記憶のある限りの所は覚えている自信はあるが、他国で案内された道なんて覚えてない。


「ほうじゃのぉ……確かに記憶力には自信がある。で、その余の記憶じゃぁ、昔のお主はもっと弱々しかった気がするがの」


 慊人は鼻で笑った。


「……昔は昔。僕だってもう大人なんだよ」

「ほぅ」

「一国の主が、弱々しいままだったら駄目でしょ?」

「まぁ、そうじゃの。余じゃったらすぐ攻め込んで領土拡大じゃわ」

「慊人みたいなのがいるから……」


 でも、まだ僕は弱い。弱過ぎる。もっと強くならなくてはいけない。残された時間でゴンザレスにも、強くなって貰う必要がある。やることも多い。


「そんな、国を守りたい巽に言いたいことがあって今日来たんじゃ」

「言いたいこと?」

「ほうじゃ。強運の巽なら国くらい守れるじゃろう。何があってもの」


 慊人の表情はいつの間にか、真面目のそのものに変化していた。


「やっぱり良くないことがあるんだね……」

「嗚呼、そうじゃ」


 一応同盟関係を結んでる僕らの国では、比較的頻繁に情報のやり取りをしている。しかし、今回のように直接言ってくるというのは初めてだった。それでなんとなく嫌な予感はしていたが……。


「直接言わないといけないくらいのことなの?」

「別にそれは関係ない。言ったじゃろうが、戦艦に乗ってみたかったって」


 嫌な予感は、それとは特に関係なかったみたいだ。変に勘繰って損をした。


「そういえばそうだったね……それで、一体何なんだい?」

「薩摩国じゃ。余の国にも戦艦を造るよう要求してきてのぉ……あいつらは魔法が使えるのに、わざわざ船を要求するのはあらゆる方面からの攻撃を考えとるとしか思えん。そこで、薩摩国の王と話してみたんじゃ。するとのビックリ仰天、武蔵国への攻撃をあっさり吐きよったわ! しかも協力するように言われての、宣戦布告を伝えろと脅されたんじゃ。わざわざ余にやらせるとは……」

「じょ……冗談だろ?」


 信じられない。信じたくない。そんなの最悪だ。話がついたと思っていたのに、やはり納得してくれていなかったのか。

 それに宣戦布告ということは、もう動き出してるということだ。


「余は冗談は嫌いじゃ、いつだって本当のことしか言わん」

「そんな……どうすれば……」


 あらゆる絶望が僕を襲う。戦力にも圧倒的な差がある。一瞬にして、この国は焼け野原になってしまう。


「安心せい、余はこの国がなくなるのは惜しいと思う。じゃけぇ、来たんじゃ。思い出せ、相手が数ならこっちは質を高めるんじゃ。それにいい小細工も思いついたしの~」


 そう言うと、慊人は悪戯っぽく笑った。

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