本気と冗談
―城門前 昼―
「運がええのぉ、お前は」
怪しげな笑みを浮かべ、慊人は銃を上に投げた。すると、銃は回転しながら高く舞い上がり、またすぐに慊人の手に綺麗に収まった。
「ビビったー! なんだよ~はぁ~」
ゴンザレスが、胸を押さえながら安心したように息を吐いた。
「あん? 誰じゃ? こいつは……巽とよう似とるわ。双子の兄弟か?」
慊人は、怪訝そうな表情でゴンザレスの顔を覗き込む。
「あ、俺はこいつの超絶遠い親戚のゴンザレスだ!」
「ゴンザレス? この国の奴じゃないんか」
「そうだ! てか、お前がさっきやったのってロシアンルーレットって奴か?」
「おう、よー知っとるのぉ。余の国に流れ着いた賊が教えてくれたんじゃ! 五発の内、四発入れておいたんじゃが……さっき引き金引かんかったら良かった。やってしもうたわ」
「いやいやいや……ちょっと言ってること怖すぎっすね」
(この確率でも僕は死ねないのか……ハハ、僕の運は底をついてるな)
「その銃見せて貰っていい?」
笑顔を作って、慊人に手を差し出す。すると、慊人は一切の迷いなく僕に銃を渡した。
「どうした? お前がそんな物騒なもん持つとか、悪寒がするからさっさと返せよ」
「この国には拳銃はないんじゃっけか? 勿体ないのぉ、剣とか刀とは違う魅力があるのに。どうじゃ? これを機に余の国と銃貿易でもせんか?」
「検討するよ」
僕の国にあるのは猟銃だけ。銃なんて、基本的に魔法が扱える僕達には必要がない。銃が好きな人間か、興味のある人間くらいしか使わない。
安芸国も上野国と一緒で魔法を使わず、発展を遂げた国だ。故に、両国とも技術力は高い。安芸国の場合は鉄などを扱った造船業、上野国は古来から伝わる産業や武器などを秘伝の技術を使って進化させ続けている。
実は、そんな国は多い。どこか遠く離れた魔法を使わない国では、僕の頭では想像出来ないほど高い建物が立ち並び、色つきで見えるテレビを国民全員が持っているらしい。しかし、この国はこの国だ。必要のない物を、高いお金を出して買う必要はない。
(こんなに小さいのに威力はあるって聞いたな……これを使って、無差別に人を殺す悪党もいるらしいし)
拳銃は想像以上に軽かった。これなら、こっそり持ち運び出来そうだ。そうなれば、ますますこの国が危険になってしまうような気がする。
(魔法だけで十分さ。十分過ぎるくらいさ……)
指を引き金に置いてみる。後は、これを引けば弾が出る。なんて恐ろしいのだろう。元々準備しておけば、簡単に攻撃出来てしまう。
「慊人は、これをどこで手に入れたんだい?」
「最近は海外とも貿易をするようにしたんじゃ。余の国は船、あっちは銃とか色々。どうじゃ? その銃は――」
銃口を慊人の額につけた。
「な、おま、何やってんだ!?」
「ほう……巽、中々面白い男になったのぉ」
しかし、慊人は怯むどころか目を輝かせた。
「巽様!?」
陸奥大臣の声がした。どうせ、また僕が暴走したとかでも思っているのだろう。介入して来ないよう、僕が正気であることを証明する為、僕は片方の手で陸奥大臣を制す。
「今日は迎えに行けなくてごめん。許して貰えるかな?」
その瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは十年前のあの日、慊人に鉄の塊で殴られた日のことだ。
「いやいやいや……それは流石に――」
「嗚呼、今この時を持って余はこの国を、お前を許そう!」
「はぁ!?」
慊人の額から銃口を離し、拳銃を返した。ゴンザレスは唖然とした表情を浮かべている。
「分かってきとるじゃん、余は満足じゃ。それにしても――さっきの余への行動は本気か?」
その質問の一瞬、慊人の顔は真面目そのものになる。
「まさか、僕は慊人とは違って冗談の方が好きなんだ」
冗談なんて軽い言葉で、片付けられるならそれでいい。僕は笑顔を作った。