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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
一章 変わらない世界
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椅子を飛ばさないで

ー第一会合室 夕刻ー

(はぁ……やっぱりかぁ)


 久々に何もない自由に過ごせる時間だと思ったのに、武者大臣――武者というのは昔からの名残がそのまま残っているもので、武士の格好をしているわけではない。大臣は統括する、いわば軍の代表者だ――の願いにより、会合を開かざるを得なくなった。でも内心そんな気がしていた。

 ここ最近、得体の知れぬ不気味な化け物。それが突如として暴れ出すという事案が何件も発生している。

 そしてその化け物を仕留めると、なんと人間となる。これには、国を守ることを目的とする武者達の中にも怯えている者が多数いるという。

 ようやく、そのための会議を開ける機会が巡ってきたのだから、僕の時間が奪われるのは当然であり必然だったというわけだ。


「それでは、陸奥(むつ)武者大臣。皆に改めて今日の会合の内容を」


 僕は会合の進行を務める。会合では基本的に王は、司会進行を任せられて最終的な決定権を持つ。会合の議長と言った所か。

 陸奥武者大臣は、椅子が少し離れた所まで飛んで行ってしまうほどの勢いで立ち上がり、口を開いた。


「はい。皆も噂を聞いたりをしているでしょうが、人間が化け物となる異常事態の報告です。この事案が最初発生したのは、三カ月程前の城下でのことです。城下を管轄とする第一武者部が通報を受け、駆けつけました。すると、そこには狼によく似た化け物がいたのです。状況を確認しますと、その化け物は既に何人かを殺めていました。その報告を受け、私は危険だと判断し討伐命令を出しました。しかし、その化け物を仕留めると姿を変えて人となりました。その人物は佐藤 昌平(さとう しょうへい)という一般人でした。そして、彼は我々の攻撃により即死。他の人物に至っても同様です。そして先週、我々は諜報管理局への調査の依頼を出しました。以上です」


 彼はそう言うと、飛んで行った椅子を元の場所に戻してゆっくりと着席した。僕は、その報告を聞きながら適当に頷いた。


「なるほど。それでは興津(オキツ)諜報管理大臣、その調査の内容は報告出来るかい?」

「ふわっ、ふわいっ!」


 彼女はよほど緊張しているのか、資料を持つ手がガクガクと震えている。


「えっと、その諜報活動の結果……」


 会合で報告する者は立って発言しなければならないという規則を、さっきの今で忘れてしまうくらい緊張しているらしい。


「興津諜報管理大臣、報告する際は御起立願う」

「あ……す、すみません!」


 彼女もまた、勢いで少し椅子を飛ばした。


(なんで皆椅子を飛ばすんだろう? 固定した方がいいのかな? というか、ゆっくり立つことを覚えて欲しいなぁ)


 なんてことを考えながら、彼女の報告に耳を傾けた。


「え、えっとですね、その諜報活動の結果、あの化け物へと変貌した人物にはある共通点があったことが判明しました。えっと……彼らは、いずれもとある人物との接触が確認出来たのです。その人物は『十六夜 綴(いざよい つづる)』で――」


 周囲がその人物の名を聞くと、一気に騒がしくなった。


「十六夜!?」

「まだ、この国に潜伏していたのか? 外国に逃亡したのではなかったのか?」

「帰国? まさか、何か企んでいるのでは?」

「あ、あのぉ、皆さん?」


(やっぱり、こうなるよね)


 僕は、声を張り上げる。


「静粛に! まだ、彼女が話している最中だ」


 ざわつきが消え、場は静寂に包まれた。


「す、すみません。そ、その彼がいつ帰国していたのかは不明です。今はそれを調査しています。彼は、我々を挑発するように平然と姿を現しています。もし彼が外国に行ったのが得体の知れぬ不気味な力を身につけて、再び国の平穏を掻き乱すためだったとしたら……これからもますますこの事件は増えていくと予想されます。ですから、なんとしても彼を捕らえなければなりません。我々は情報面で協力出来るよう、これからも調査を進めて行きたいと思います。以上です」


 彼女は、ハーッと大きくため息をつくと、飛んだ椅子をゆっくりと戻して席に着いた。


「では、最後に、医者の藤堂 平八(とうどう へいはち)殿、解剖の結果を報告願う」


 僕がそう言うと、やっとゆっくり立ち上がる人物が現れた。この場では希少な人物だ。基本的に皆、椅子を飛ばしたがる。


「はい。では、今まで原因不明の現象を起こしてしまった人物達全員の解剖をした結果を簡潔に。彼らは、何も共通点がなかったです。性別や年齢、体重に身長、出身や身分、そして遺伝子……どれも多種多様。それらの人物にはそれぞれの形がありました。皆がこれといった共通点を持っていなかったのです。ですから、彼らは間違いなく彼に何かされたとしか思えません。しかし、その証拠は体には残っていません。となれば、魔法ではないかと考えたのですが、当然我々の魔法技術には人を化け物に変えるものなど存在しません。それに、人が魔法を受けた際に残る微粒の魔法分子も残っていなかったのです。だとすれば、彼が異国で身につけたその魔法に秘密があるのではないかと。まぁ、これは私の憶測ですが。その界隈に詳しい人に聞くのも手かなと思います。以上です」


 彼は僕に向かって微笑みかけた後、着席した。


「何か質問のある者は?」


 でも、誰も手を挙げなかった。


(さっき、あんなにざわついてたじゃないか)


「では、これで会合を終了する」


 僕のその一言で、場は解散となった。窓を見ると、もうすっかり日は落ちていた。


(思ったより時間がかかったなぁ。おなかが空いたけど信濃国の望月もちづき殿に先日のお礼の手紙を書かないと。疲れる)


 僕は、ゆっくりと立ち上がり第一会合室を後に自室へと向かった。

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