自分との戦い
―ゴンザレス 巽の部屋前 早朝―
時刻は午前五時。正直言って超眠いが、朝早くないと意味がない。
「寝れたか?」
隣で元気なく俯いてる琉歌に、一応聞いてみる。琉歌は、首を横に振った。
「ま、そうか。大丈夫だ、今日から安眠極楽天国だ!」
「死ぬの? 私……」
「あーそういう意味で言ったんじゃねぇから! 素晴らしい朝に出来るってこと!」
「うん……」
「と、とにかく二人は多分ここにいる。もしかしたらお前にとってかなり衝撃の強いのがこの先にある可能性があるから、覚悟を決めろよ」
朝が来る前は夜がある。つまり、その夜に一線を超えてしまった可能性も否定出来ない。見たくもないものを見せられてしまう可能性があるが、仕方ない。俺は深呼吸をして、巽の部屋の扉を開けた。
その瞬間、目の前から刃が振り下ろされる。それを避けられなかった俺は、顔をもろに切りつけられた。
「ぬああああああっ!」
痛みと衝撃で俺はその場に座り込む。
(痛ぇ……死ぬわ! 死ねねーけど)
本来なら目などが切られ、真っ赤な世界が広がっていただろう。しかし、俺はそうじゃない。俺は他人から物理的に傷付けられることは絶対にない。ただし、それ相応の痛みだけは感じるが。
「やっぱり来ると思っとったわ。それより、あんた面白いねぇ。血も出んの?」
激痛が引かない顔を、片手で押さえながら前を見る。目の前には剣を持って虚ろな目で遠くを見つめる巽と、暗闇の部屋から袖で口を覆い隠しながら楽しげに笑っている紗英がいた。
「出てなくても出てる気分だわ~痛ぇ~! おい、ふざけんな! いい加減シャキッとしろ! 巽!」
必死に俺は巽に呼びかける。しかし、それにうんとすんとも反応しない。
「無駄よ~。深い深いうちの愛に堕ちとるんじゃけぇ……うちのことで頭がいっぱいなんよ。なんだったら、お顔のそっくりなあんたも、うちの愛の糸でがんじがらめにしてあげてもええよ」
「嫌だ~断固拒否」
「そう……ま、いいわ。さぁ、巽! そっちの男は後でじっくり楽しみたいけぇ、その隣の女……琉歌を殺って!」
「あ!?」
その命令が下された直後、巽は一切の躊躇いなく足を踏み込んで琉歌に剣を振り下ろそうとする。唖然としている琉歌は、その場から動こうとしていない。
「やっべ!」
咄嗟に俺は風の魔法を起こして、琉歌を遠くに飛ばす。
「きゃぁ!?」
華麗に琉歌は廊下を転がっていく。
「すまん琉歌! マジで死ぬから気を抜くな!」
「う、うん!」
廊下でうつ伏せになって倒れている琉歌に、またしても巽が剣を片手に歩み寄っていく。俺は慌てて立ち上がり、巽の腕を掴む。その時、やっと巽が俺を見た。
「お前の相手は今の所、俺だ」
(どうせあいつは暗闇から出れねぇみたいだしな……カーテンを開けるなり、光を浴びせるかしたいけど、今は琉歌の身が危な過ぎる! 計画通りって難し~)
「あんた相当な死にたがり? うちの所に来る?」
「死にたがり? かもな」
「邪魔されても困るんよね~仕方ない。巽、まずはこっちを痛めつけてやりんさい」
紗英がそう言うと、巽はくるりと方向転換しながら腕ごと俺を投げ飛ばそうとする。が、その前に俺が巽のみぞおちを力強く蹴った。すると、巽は咳き込んでバランスを崩す。
「危ねー。でもお互い様だよなぁ?」
それに対して、巽からの返答はない。苦悶の表情を若干浮かべつつも、俺に視線を向ける。
「なんか言えや! クソチキン南蛮野郎!」
俺は、巽に向かって殴りかかった。




