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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十六章 何度私を忘れても
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その覚悟はとても大きい

―琉歌 大広間 夜―

 ゴンザレスさんに連れられて、私は大広間に来ていた。涙はまだ溢れていたが、さっきよりは落ち着いてきた。珍しく誰一人としていないここで、私達は机を挟んで向かい合う。


「まだ十一時くらいだってのに、珍しく誰もいねぇな。こんなにひっそりとしてたことあるか?」

「ない……かな、私の記憶の限りでは」


 この大広間にも必ず人はいつもならいるはずだし、廊下も使用人の皆が忙しなく動き回っているはず。それがなくなったのは、今日の昼頃。突然、人の姿が少なくなった。皆一体どこに行ってしまったのかと思うくらいだ。

 お義父さんも先ほど偶然出会っただけで、今日の昼からは一度も見かけなかった。英語を教えてくれた美恵子さんも、急に部屋から出て行ってしまったし。


「なんかさ、色々違和感を感じるっていうか……体がむず痒いし、フワフワするし、とにかくキモイんだよな。分かるか?」

「同じ! 私と!」


 同じ感覚の人がいたのが嬉しくて、思わず大声を出してしまった。


「やっぱり……ってことは、なんかよく分からん現象の影響を受けていないのが、俺とお前だけってことかな」

「よく分からん現象?」

「とんでもなく強力な力と、とんでもなく欲望に満ちた力が合わさってこうなってる。だから、皆おかしい。色々聞いた結果、さっぱりピーマンだったからどう説明すればいいのか分からんが、どうやら城全体に変な魔法がかけられているらしい。それに加えて巽には、よりいっそう強力な魔法がかけられているみたいだ。しかも、それは個人の作り出した魔法らしい。巽をまず救うには、欲望を打ち砕く必要がある。変な女をぶっ倒し、尚且つ巽に絡む欲望の糸を解くんだ」


(欲望の糸……魔法……)


「それって私にどうにか出来ること?」

「え?」

「私……魔法なんて使えない。使ったこともないし、使い方も分からないよ……」


 私のいた国では魔法なんて存在しなかった。巽さんが魔法を使って初めて魔法というのを、この身で実感した。それから一人で少し巽さんの真似をしてみたものの、一回も成功しなかった。

 それに、本に書いてあった。魔法を打ち砕くのは魔法であると。それなら、魔法の使えない私には何も出来ない。


「使えるだろ」


 ゴンザレスさんは何を言っているんだ、と表情でそう訴える。


「何度かやってみたけど全然出来なくて……私には素質が……」

「何も魔法ってのは、この国で使われているような奴だけじゃねぇ。例えば……そうだな歌術ってのもある」

「歌術?」


 聞きなれない単語だった。


「そ、歌でどうにか出来る。お前声綺麗だしさ、出来そうじゃね? ちょっと歌ってみな」

「歌うだけでいいんですか?」

「おう」

「分かりました」


 空気を吸い込みながら、何を歌うか考えた。頭の中によぎったのはあの時の歌だ。私が一番得意で、幼い頃から好きだった歌。


(これなら……)


「この歌が誰にも届かなくとも、私はこの歌を永久に紡ぎ続ける……小さな祈りの歌を♪」


 それから夢中になって私は歌った。あの時のことを思い出すように。




「上手い! 心が泣いた!」


 歌い終えると、大広間に拍手の音が響いた。


「ありがとう……でも、これはただの歌だよ」

「いや、ただの歌じゃなかったぞ。お前にとって自覚はないみてーだが、これは手間が省けてラッキーだぜ!」

「え? どういうこと?」

「お前の歌には魔力がある! 歌ってる最中、歌に力を感じたんだ。俺もここまで色々判断出来るようになるとはな~成長したわ~。朝になったら巽のとこ行くぞ、お前にもガッツリ協力して貰う必要があるからな!」

「え!? 協力!? む、無理だよ……私なんかじゃ力不足で……」

「出来る出来ない、力不足力過剰とかそういう問題じゃねーから! やるんだよ! てか、やって貰わないと色々と困る! 大丈夫、お前は本当に歌ってくれていたらいいんだ。ただ……巽のことだけを想いながら」


 私の歌に魔力なんてあるのだろうか。あの時私の歌では――。


「お前は一人じゃない。一人で傷付くな、俺が一緒に傷付いてやる」


 ゴンザレスさんは、はにかんだ。


「俺がいる、って言ったろ? 巽を元通りにしたいだろ? 皆を助けたいだろ? お願いだ、やってくれ」


 今度は頭を下げる。ここまでしてくれているのに、私の心情で断ってはいけないと思った。


「……分かった。私の出来る範囲で一緒にやろう」


 自信はない。だけど、やらないと何も変わらないのなら私はやる。

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