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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十六章 何度私を忘れても
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不幸は続く

―琉歌 自室 夜―

「寝れないなぁ……」


 部屋を真っ暗にして目を閉じても、頭の中で巽さんと紗英さんが唇を重ねている姿が浮かぶ。忘れなくてはいけないのに、忘れたいのに、深く深く焼きこまれてしまったようだ。


(どうしたらいいの……?)


 ずっとこの疑問を自分に投げつけては、どうすることもなく放置している。いや、考えたくないのだ。考えると心が痛くなる。でも、勝手に心が考えてしまう。


(どうせ寝れないし、お城の中を探検してみようかな……)


 実際はそんな気分ではなかったが、そうでもしなければ気が紛れないと思った。ゆっくりと起き上がり、部屋の扉を開けた。

 突然眩しくなって、目をまともに開いていられない。暗い所から急に出るのはよくない。だから、目を細め廊下に出た。


「おや、どうした? 眠れぬのか」


 声のした方へ視線を前に向けると、そこにはお義父さんがいた。しわが深く刻み込まれたその顔で私を睨む。怒られてしまうのではないかと力が入った。


「……慣れぬ地で、慣れぬ生活。苦しいか?」


 しかし、お義父さんの口から出たのは私に対する気遣いの言葉だった。「苦しいか?」そう聞いて貰えるだけで、涙が溢れ出そうになる。言おうか言うまいか悩んだ。苦しいです、と素直に言えば巽さんが怒られてしまうかもしれない。


「どうした?」


 怪訝そうな表情で私を見つめる。鳥肌が立ちそうなほど恐ろしいのだが、恐らくお義父さんはそんなつもりではないのだろう。でも、言わなかったら殺されてしまいそうだ。


「あの……この国では幼馴染とは口づけをする習慣があったりするのですか?」


 恐る恐るの質問。言い終わった後になってから、鼓動の音が大きくなる。


「幼馴染との口づけ? そんな習慣は……」

「その、巽さんと紗英さんが口づけを……紗英さんとなら口づけは許されるので――」


 私が紗英さんの名前を出した時、お義父さんは目を見開いた。


「嗚呼」


 そして、途端にお義父さんの口調が変わった。


「え?」

「二人はいいんだ。二人は……まさか、そんなことで悩んでいたのか? 笑わせる……くだらん」


 すっかり私への興味を失ってしまったかのように、お義父さんは廊下を歩き、扉を開けて部屋の中に消えていった。


「そんな……」


 折角、頑張って伝えたのに。思いを踏みにじられてしまった。悲しみが込み上げてくる。


(どうして二人ならいいの? どうして私が怒られるの? 分からない、分からないよ……)


 紗英さんの名前を出した時、険しい表情と声色が変わった。やはり、何かあるとしか思えない。もしかしたら、昼から感じていた違和感はこれだったりするのかもしれない。

 上手く言えないのだが、体が宙を浮いているような感覚。夢の世界にいる気分だ。


「うぅ……うぅ……」


 私は泣き崩れた。


「泣くなよ、俺がいる」


 優しく励ますような声が背後で聞こえた。

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