表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十六章 何度私を忘れても
194/403

禁断の愛に触れて

―琉歌 廊下 夜―

「落ち着いたか?」


 ゴンザレスさんに抱き着いたまま泣き続けた結果、彼の服を少し汚してしまった。


「はい……汚しちゃってごめんなさい」

「え? あーいいよいいよ別に。洗えばいいしさ」


 チラッと服を見た後、ゴンザレスさんは私の頭を優しく二度ほど撫でた。それで急に恥ずかしくなった私は、慌ててゴンザレスさんから離れる。


「ハハハ、もういい? 残念~……なんてな」


 小さく笑みを浮かべながら彼は言った。

 こう見ると、本当にゴンザレスさんと巽さんはそっくりだ。遠くから見たらきっと判別がつかない。今は服と声、話し方、雰囲気の違いがあるからいいけれど、完全に似せられたら分かる気がしない。

 巽さんのフリをしたゴンザレスさんが現れたあの日、若干の雰囲気の違いがあったからこそ見抜けたものの、彼が本気で真似をしたら私はきっと騙されるだろう。


「どうした? ジーッと見て。ちょっと照れるぞ」


 ゴンザレスさんは、恥ずかしそうに目線を逸らして、唇を噛み締める。一番の違いはこういった表情の変化が豊かな所だと思う。巽さんの表情は五本指で分類出来てしまうほど少ない。そして、自然さがあまりない。


「ごめんなさい。その……巽さんと瓜二つだから、どうしてなんだろうって」

「あー、それね。分かるわぁ、多分俺がお前でも同じこと思うわぁ。瓜二つ所じゃないレベルな訳だけどもさ、まぁ仕方ないよね。その疑問は言葉で解決してやることが出来る」

「教えて下さい!」


 傷付いた心が小さく跳ねた。疑問が一つでも減ること、理解出来ること、それはやはり嬉しい。


「俺とあいつが似ている理由……それは……」

「それは……!」

「偶然」

「え?」

「この世には自分にそっくりな人が三人はいるって言うだろ? つまり、まぁそういうこともあるんだなぁー的な話なんだよ。だからお前はあんまり深く考えんな。変に色々考えて好奇心を育んでもなんにもならねぇ。それが、お前にとって一番自分の身を自分で守る方法なんだよ」

「急にどうしたの……?」


 長々と語られてしまったが、結局二人の顔がそっくりである理由はそこにはないように感じた。


(つまりは偶然ってことなの? それにどうして私の好奇心が関係あるの?)


 新たなる疑問が私の中を埋め尽くす。


「あ~……俺やっぱ下手だな。うん、まぁ俺の言ったことは永遠に忘れないでくれ。さ、さてと! 俺はちょっと庭で稽古でもしようかなぁ~ハハハハハ!」


 梅干しでも食べたような顔をして、ゴンザレスさんは城から飛び出していった。


(やっぱりゴンザレスさんは少し苦手だわ。はぁ……それにしても、巽さんどうしちゃったんだろう)


 あんなに泣いたというのに、先ほどの光景を思い出すだけでまた涙が溢れてくる。誰かに相談してみたいけど、まだ私には相談出来るほど仲のいい人なんていない。どうしていいのか分からない。

 先ほどの場所に戻ればすぐに分かることだろうけれど、もう一度あんなのを見せつけられたらと思うと足が進まない。


(寝て忘れよう……それしかない)


 私は一人、自室に向かって歩いた。

***

―ゴンザレス 庭園 夜―

(たまげたなぁ……不倫? 浮気? どっちでもいいけど、これ大問題じゃん)


 庭園を通るいつもの道のりを通って、稽古場で自主練をしようとしたら巽と知らない女が熱い熱いキスを交わしていた。面白そうだと思って岩陰に隠れて見守っている次第だ。

 普通だったら気付くか気付かないかの位置だが、キスに夢中になっている二人が気付くはずがなかった。


(満月の下で禁断の愛を育む系なのか……う~ん、お相手は?)


 女をしっかりと見てみる。それで気付いた、女から漂っているこの世のものではないオーラに。


(あの女……なんか変だ。あの時の悪霊以上のヤバイ奴って感じがする。でも触れ合ってるってことは霊ではないのか? いや、霊でも実体に一定期間だけ戻れるような魔法があったはず……これほどのオーラを出す人間なんて存在しないしな)


 今度は巽の方に目を向けて観察してみる。すると、蜘蛛の糸のようなものが体中に沢山絡まっていた。


(うわぁ……え、何あれキモ。でもあれ巽には見えてなさそうな感じだな)


 巽達は熱いキスを交わすのをやめた。そして、またキスを交わす。その時一瞬見えた、巽の目は虚ろだった。


(おげぇ……なるほど、そういうことか。これは色々と深い何かがありそうだ……あいつに報告してみよう)


 稽古をするのを取りやめて、俺は城内へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ