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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十六章 何度私を忘れても
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満月の夜に愛を

―庭園 夜―

 満月が和風庭園を照らし、池に映った月が小さく何度も揺れている。


「見せてくれるものって何なん?」


 女性は、僕に抱き着く。抱き締めてしまいそうになったが、すんでの所で必死に堪える。


「これ……お前に見せるものなど……何もっ……綺麗で……」


 体と口が言うことを聞かない。僕の意思に反することばかり、まるで僕の体が僕のものではない気分だ。

 そもそも、目の前にいる女性は幼馴染でもなんでもない。冥界から這い出て来た存在であることしか僕には分からない。


「みやすい男じゃないんじゃ、しぶといわ。でもまぁ、諦めの悪い男ほどやりがいがあるってもんじゃし。ウフフ、もっと強い魔法、うちのこと以外忘れる魔法をかけてあげるけぇ」

「琉歌を傷付けた……もうやめてくれ……もう……」


 しかし、必死に絞り出した願いは届かず、女性の手が僕の頬に置かれた。その手は氷のように冷たい。その体には何もない。あるのは、ただの欲望だけ。


「うちのこと愛しとるじゃろ?」

「あ……い……して……」


(駄目だ、言っちゃ駄目だ……これだけは……)


 抵抗する僕を嘲笑うかのように、僕の唇に自分の唇を押し付けた。頭の中にある沢山の情景が、吸い込まれるように消えていく。


(ごめん、琉歌……)


 ぼんやりとした意識の中、最後に心の中でその想いを吐き出した。


(琉歌って誰なんだ? どうして僕は謝ったんだ? 紗英だけが僕の全てなのに、余計なことを考える必要なんてないじゃないか……)


 紗英からの愛の要求に応えるように、僕は舌を絡めていく。そして十分過ぎるほど愛を確かめ合った後、僕らは見つめ合う。


「……愛してる、これからもその先も」


 僕の頬を生温いものが伝った。


(涙? どうして僕は泣いている?)


「えぇ、うちもよ」


 紗英は、それを優しく拭って微笑んだ。

***

―琉歌 庭園 夜―

「こんなの……やだぁ……」


 私は岩の陰に隠れて、溢れ出す涙を必死に拭き取っていた。激しく情熱的に唇を交わし合う二人を見て、驚きと動揺、悲しみと怒り、様々な感情が入り混じって溶けた。

 何かを二人が話した後、突然の口づけ。お互いに愛の言葉でも囁いていたのだろうか。ずっと二人はそんな関係だったのだろうか。こんなものを見るくらいなら、追いかけなければ良かった。だって、見なければここまでの思いをすることなんてなかったのに。

 もうこれ以上、ここにいてもしょうがない。苦しい思いをするくらいなら、この現実を私は受け入れない。寝て、この気持ちを夜の闇に流す。そうでもしなければやっていられない。


(私が忘れればそれでいいのよ……そうよ。紗英さんが帰るまで私が忘れ続ければそれで……)


 立ち上がると一瞬、目の前が揺れた。目の前が揺れ続けている中、私は城の中へと逃げ込んだ。しかし、その時誰かにぶつかってしまった。そして体勢を崩してしまった私を、その人は腕を掴んで抱き寄せた。


「わお!? どうした!?」


 その人はゴンザレスさんだった。最初出会った時とは、かなり雰囲気の違う人。あまり得意ではなかったけど、今は何故だかとても安心出来る。それは、きっと巽さんによく似ているからかもしれない。


「うぅ……うわああああああああん!」

「え!? 何!? 俺やらかした!? あ、こうしてることに泣いてる!? だったらごめん! これはその助けようとした時の結果論であって……」

「少しこのままでいさせて……ごめんなさい」

「お? おう……」


 温くて、全ての感情が包まれていくような感じがした。

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