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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十六章 何度私を忘れても
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違和感

―琉歌 自室 夜―

「帰ってこないなぁ……寂しいなぁ……」


 かれこれ数時間、私は椅子に座って英語を読みながら巽さんの帰宅を待っている。しかし、予定の時間になっても彼が帰ってくる気配が一切ない。それなのに誰も何も言わない。


(何かあったのかな、大丈夫かな? こっそり探しに……ん?)


 どこから入って来たのか、黒い蝶が目の前を通過した。優雅に自分の羽を見せつけるかのように飛ぶその姿はとても美しい。しかしその反面、純粋な黒さに違和感も覚えた。


(ちょっと怖いな……外に逃がしてあげよう)


 部屋の窓を開けるため、私は席を立った。すると、蝶は私の上をヒラヒラと舞い始める。


「大丈夫だよーお外へ行く準備をするだけだから」


 しかし、私が窓を開けた時にはその蝶はもういなかった。部屋全体を見渡すも、やはり見当たらない。

 部屋の扉も閉めたままなのだから、間違いなく出て行くのならこの窓しかない。でも、その窓を蝶が通った気はしなかった。


「あれ? さっきまで私の上を飛んでたと思うんだけど……窓通ったかな? 気付かなかっただけかな? う~ん、変なの!」


 不気味に思った私は急いで窓を閉めた。


(そういえば、昼くらいからずっと変な感じがするんだよね……なんだろう? 気にし過ぎかな?)


「ハハハハ……」

「巽さんだ!」


 廊下から、巽さんの嬉しそうな笑い声が聞こえた。


(良かった……何もなかった! たまたま遅くなってしまっただけなんだわ!)


 私は高鳴る鼓動を感じながら、扉を思いっ切り開いて廊下に出る。すると、そこには巽さんと――巽さんに寄りかかる一人の女性がいた。


(誰?)


 あまりにも馴れ馴れしくしているその女性に、私は腹が立った。それを受け入れるかのようにしている巽さんにもだ。

 急いで二人の所へと向かう。


「巽さん!」


 そう叫ぶと、二人は同時にこちらに向いた。


「あぁ……琉歌」


 先ほどまで嬉しそうな笑みを浮かべていたというのに、私が声をかけた瞬間、巽さんは真顔になって私を見つめた。まるで、邪魔だとでも言うように。


「隣の人は誰?」

「彼女はね、僕の幼馴染の紗英さえだよ。遠路遥々、安芸国から来てくれたんだ!」


(どうして急にそんなに嬉しそうに話すの? この気持ちは何? よく分からない……) 


「初めまして! 本名は宇根本うねもと 紗英って言うんよ。よろしく~あんたは?」

「琉歌……」


 悔しくて、悲しくて、自分でも分かるくらい嫌な声が出た。どうして、こんな気持ちになるのだろう。


「そんなことより紗英に見せたいものがあるんだ」

「えぇ? なんなんじゃろ~? 気になるわ~」

「庭園にあるものなんだけどね、ちょっとついて来て!」


 巽さんは、紗英さんの手を握る。


「仕方ないね~ほんま」


 そして、二人は廊下の向こうへと走り出した。その時、紗英さんがこちらを振り返って薄笑いを向けた。


(おかしい、何かがおかしいよ……)


 巽さんの様子も、今目の前で起こった出来事も全てが私には受け入れられない。きっと紗英さんに何かあるに違いない、あって欲しい。そう願い、私は二人の後を追った。

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