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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十六章 何度私を忘れても
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愛する人の帰りを待つ者

―昼 城下町―

「疲れる……」


 僕は一人、路地裏で隠れて肉を食べていた。ここ数日、外での仕事を多く入れてしまったせいで、休憩がほとんどなく食事を食べる時間さえまともに取れない。

 そんな中ようやく食事にありつけたものの、人前で肉を食べる訳にもいかず、とりあえず理由を適当につけて見つからないよう、ひっそりと食べている訳なのだが。


(二人分って結構多いよな……自分でやったことだから仕方ないけど)


 既に胃袋は限界を迎えていたが、まだ食べなければ美月の分まで栄養を摂取することが出来ない。拒絶する体に無理矢理、肉を詰め込んでいく。


「うぐっ……げほっ!」


 もう少しで次の場所へ移動しなくてはならない。その為には、もっと食べる速度をあげなくてはならないのに。


「もう少しっ……!」


 最後の肉片を口に入れ込み、喉に流し込んでいく。吐き出そうと体は必死だが、僕はそれに抗う。何ヵ月か前にも同じようなことをした記憶がある。あの時と同じように肉片を胃袋へと届ける。

 なんとか肉片が喉を通過したのを感じた時、目の前に黒い蝶が現れた。その黒い蝶は僕の周りをゆっくりと一周舞うと、突如として人の姿になった。


「え!?」


 予想外の出来事に、僕は声を上げてしまう。その人の姿は、だんだんと女性であることを僕に認識させていく。黒い着物、地面についた黒髪、唇を黒く染めたその姿に僕は恐怖を感じた。


「あの女に課す試練の内の一つ……それを私は託された。貴様に拒否権などない。呪うなら、貴様の運命を歪めた女を呪え」

「さっきから一体……」

「冥界にて彷徨う邪悪なる女の魂よ、特別に地上へと戻る権利を与えよう。この者を好きに利用するといい!」


 女性がそう唱えた瞬間、地面から別の女性が這い出てきた。理解不能な現象である。


「この者は安芸国で、昔多くの男をたぶらかしたおおうつけだ。独自の魔法を開発し、自分の欲望のままに男を操った。権力、財産……あらゆる力を手に入れたのだ。しかし、その代償は大きい。仮初の愛では、本当幸せにはなれないということだ……さて長々とした説明はよそう。さぁ、楽しませて貰うぞ」


 目の前の女性は黒い蝶へと変わり、またどこかへと羽ばたいていった。そして、地面から突如として現れた全く別の女性が僕の足を掴んでニヤリと笑った。

***

―琉歌 自室 昼―

「ね~私も巽さんについて行きたい!」


 最近、巽さんはずっと外での仕事ばかりで帰ってくるのが遅い。帰って来ても、今度はここでの仕事で忙しそうで心配だ。表情から疲労感が伝わってくる。どうにかしてあげたいのに、どうすればいいのか分からない。これでは、巽さんの妻として相応しくない。

 それならば、巽さんについて行けばいいのではないかと考えた。気持ちも巽さんの苦労も、分かるようになると思うから。


「駄目ですよ、今の貴方に必要なことは教養です。さぁ、英語の続きをしますよ。〇▽×★◆……」


 美恵子さんが机に置いてある本を指差しながら、英文を朗読する。


「あ~やだやだやだやだやだやだ! 何言ってるのか全然分からない~!」


 私は机に伏せた。英語なんてよく分からない、全然楽しくない。もし、隣にいるのが巽さんだったらきっと楽しめたはずなのに。


「いい加減になさい! まずは聞く耳を持つのです!」

「やだぁああああ!」


(早く帰って来て……巽さん)

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