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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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明後日の段取り

―自室 朝―

「それじゃあちょっとお話しましょう。入るわね」

「えっ! はっ、はい!」


 僕は咄嗟に涙を拭い、泣いていたという証拠を消す。消してすぐに、部屋の扉が開かれた。


(そういえば、母上が僕の部屋に来るのは久々だ)


 母上は部屋に入るなり、周囲を見渡しながら僕のいるベットへと近付いた。


「あら? もしかしてこない方が良かったかしら?」


 僕の顔を見ながら言った。


「えっ!? そんなことはありません!」

「そんなに涙目なのに?」


(ああああああ! もう! やっぱり隠し切れなかったっ!)


「こ……これは欠伸をしただけです。欠伸です、欠伸」


 恐らく、同じような状況に陥った者が使うであろう常套手段。これが母上に通じるだろうか? 


「う~ん」


 母上は、真顔で僕の顔を深く覗き込んだ。僕は、母上の目を見ることしか出来ない。そのにらめっこが数分ほど続いた後、母上は諦めたように顔を上げた。


「はぁ……分かったわ!」


 そして、母上は頬を綻ばせる。


(誤魔化せたのか?)


「かなり寝てるんですけどね。寝たりないのかもしれないですね、ははは」


 母に合わせるため、僕も口角を上げて笑った。


「折角の休みなのに、寝て過ごすなんて巽も不運ね。もし今日元気だったら、一緒にミュージカルでも見ようと思っていたのに……残念ね」


「ん? え? みゅーじかる?」

「ええ! 前、アメリカに行った時に私感動しちゃって。これは我が国でもやるべきだわ! と思ったの。それで、色々無理言ってやっと今日観れるようになったのよ! 向こうの人達にも来て貰って。歌に踊りに……勿論物語もあって本当に素敵なのよ!」


(あめりか? 母上が最近行ったのは米国……それが国際的な言い方なのかな)


 母上は、目を瞑り思い出に浸るように言った。

 母上は、海外や外国の文化が大好きでよく時間があれば外遊という形で、様々な国に行っている。僕なんかでは分からない言葉を多く読み書きしたり、その国にしかない物を持ち帰ったりと国の発展に大きく貢献している。そして、そのお陰でこの国には多くの文化が融合することになったのだ。


「そうですか、それは観てみたかったです」

「うふふふ……大丈夫、絶対観れるから」


 母上は笑った。その表情は、何かを企んでいるようにも見える。


(ん? 絶対? まぁ、いいか)


「あ、それはさておき明後日のことなんだけれど」


 忘れていたという表情を浮かべ、母上は話を切り替えた。


「明後日、上野に行く日ですね。何でしょう?」


 僕がそう言うと、少し母上は神妙な面持ちになった。


「明後日は、もし体調不良であったとしても行かなければならないから、万が一に備えて彼も連れて行くわ」

「彼……もしかして、ゴンザレスですか?」

「えぇ、ここで暫く安静にしていれば、これ以上傷も風邪も酷くなることはないと藤堂さんは言ってたけれど、向こうで流行っている奇病が今の状態では感染しやすいって」

「奇病?」


(何だろう、奇病って)


「急な高熱、節々の痛み。場合によっては死にも至ると言われている病。薬もないらしいの。誰でもなりうるらしくて。特に巽、貴方は免疫力が弱まっている今は危険だから、十分気を付けないといけないわ」

「恐ろしい病ですね」


 僕ら人類では手に負えないような病は次から次へと発生している。というより、その存在に気付いていなかっただけなのかもしれない。色々分かるようになって、それが自分達の知っている病とは違うと気付くのかもしれない。

 そして、病を作る人物までもが現れた。踏み入れてはならぬ領域に、足を踏み入れてしまったのだ。


「でも、気を付けてもなってしまうから、その時に備えてゴンザレス君を連れて行くのよ。彼本当に巽そのものだから、最悪成り代わっても問題ないと思うの。ちゃんと練習すればね」

「不安です」


 ゴンザレスのしょうもない姿ばかりが浮かぶ。単純で、子供でちゃんと相手の人と接することが出来るのかという不安しかない。


(……まぁ、僕が健康に過ごせばいいだけだ。手洗いにうがい。出来る限り徹底しよう)


「大丈夫! ああ見えても、根は巽と同じ! ふふふ、びっくりしゃうかも?」

「そのびっくりをなるべく体験したくないですね」

「藤堂さんと外交大臣も同行してくれるし、頼りになると思うわ!」

「はぁ……だといいですが」


 頭の中には最悪の状況ばかり浮かぶ。消しても消しても、いくらでも沸き上がる。心配性というか悲観的なのかもしれない。


「もう! 大丈夫よ! あっ、私そろそろ行かないと。じゃあ巽、しっかり休みなさい!」


 母上は僕の頭を優しく撫でると、颯爽と部屋を出て行った。僕は息を吐いて、枕元の本を再び手に取った。涙はもうすっかり乾いてなくなっていた。

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