根っからの遊び人
―吉原 夜中―
吉原から感じる独特の雰囲気。赤いぼんやりとした光と、黄色い目が眩むような強い光が混ざり合う。夜中であることを忘れてしまいそうだ。
「で、目的の遊女とかいるの?」
「あ、はい。一応……」
吉原の大通りを僕達は進む。小吉さんがずっと僕の肩に手を回しているのは何故なのだろう。暑くて仕方がない。ただでさえこんな格好をこんな時期にしているというのに。
「へ~誰?」
「光儀楼の薫太夫……」
「は!?」
小吉さんは大声を上げて、僕を見る。
「どうかしましたか?」
「自分の言ってること分かってるの?」
「薫太夫に会いたいって言ってるだけですけど……何か大事ですか?」
僕がそう言うと、小吉さんはわざとらしくため息をついた。
「光儀楼はこの吉原で一番格式高い、そこら辺の馬鹿じゃ絶対に相手してくれない所だよ? しかも太夫って……正気の沙汰とは思えないなぁ。どうしても行きたいの?」
「行きたいんです。行かないといけないんです」
そう、まずは薫太夫に何が何でも会わないといけないのだ。でなければ、美月の願いを叶えることすら出来ない。
「……お金かなりかかると思うよ。タミがどれほどのお金持ちかは知らないが……大丈夫?」
「お金ならあります」
僕は懐から数枚の大判を取り出した。懐の中にはまだ数十枚ある。それでも足りないというのなら、一時的に空気と一体化させている大判を魔法で取り出せばいい。今まで僕が使ってこなかった自由に使えるお金だけでなく、質屋で売却したお金もある。
「……たまげた。タミ、相当本気だね? あ、さては君」
「え?」
小吉さんは、クルリと僕の正面へと立つ。そして、僕の両肩に勢い良く手を置いて叫ぶ。
「根っからの遊び人だね!? 絶対そうだ! そうとしか思えない! ずっとコツコツと彼女の噂を聞いて貯めて、彼女がお披露目される日をずっと待ちわびて待ちわびて、今日ようやく来れたんだね!? 嗚呼! なんて素晴らしい……」
(酷い勘違いだな……)
「よし! そんなことなら我も協力しなくてはならないね! 任せて! 我は既に薫太夫と顔見知りだ! 一々面倒なことをしなくても、タミはすぐに会える! 吉原初めてのタミに我からの最大のおもてなしをしようじゃないか!」
小吉さんは、僕の手を引っ張って突然走り出す。結った長髪が僕の顔にぶつかる。
「それってどういう……」
「薫太夫にすぐに会わせてあげるってことさ! 本当だったら彼女ほどの太夫、すぐには会ってはくれないんだけど……我は天性の遊び人、色々あるのさ。巽、君は本当に運のいい男だよ」
ニコッと彼は微笑むと、走る速度を上げていった。




