天性の遊び人
―吉原大門 夜中―
(着いたけど……夜中とは思えないくらいの賑わいだな)
僕は眼鏡をかける。少し前まで仕事中によく使っていたものだ。正直今はあってもなくても一緒だが、ちょっとした変装の為につけておく。
吉原の入口、大門の前。ここからでも、中の煌びやかさが伝わってくる。男性を引きとめようとする女性の声、女性に話しかける男性の声。楽しく笑う声に、泣き叫ぶ声。酔っ払いか呂律の回っていない声、はしゃぐ人々の声。
「お~い。どうした、突っ立って」
背中を突然何者かに押された。僕は、体勢を崩して前によろける。一体誰なのかと後ろを振り返ると、そこには全身金色の着物を着た派手な男性が立っていた。
この国では珍しく茶髪、染めているのだろうか。それに、髪も男性にしては長い。頭の頂点から一つ結びをしている。見るからにヤバい奴に声をかけられてしまったようだ。
「え……あ、吉原凄いなぁって思って……」
そう言うと、男性はかなりの至近距離に近付き僕の顔を見つめる。
「な~んか、君誰かに似てるなぁ。どっかで絶対見たことあるんだけど……」
(早速の危機的状況だ)
「お、お知り合いか誰かじゃないですかね?」
「かなぁ……」
「ハハハ……ハハハ」
全然笑えないが、笑うしかない。とにかく軽くでも笑えば、この場を乗り切れる気がした。少しの間にらめっこが続いた後、ようやく男性は顔を離した。
「そういえば君、ここ来るの初めてだったりするの?」
「は、はい」
話題が変わったことに、とりあえず一安心だ。
「なるほどねぇ、通りで初々しい感じがする訳だ」
「初々しいですか?」
「分かるよ……我も始めて来た時、右も左も分からない哀れな子羊だったからね。しかし時を重ねて、今はこの吉原で我の顔を知らぬ者はいないんだ! どうだい凄いだろう?」
「す、凄いですね! 顔が知られてるなんて!」
とりあえず拍手をする。凄いのかもしれないが、要するにかなりの遊び人ってことじゃないか。
しかし、この人と出会えたことによって色々聞けるかもしれない。薫太夫のこととか、かなり詳しそうだ。
「ハッハッハッ! そうだろうそうだろう!」
男性は、満足気に懐から取り出した金色の扇子で扇ぎだした。
「我は天性の遊び人! 五十嵐 小吉だ! 小吉と呼んでくれ!」
「は、はい。宜しくお願いします。小吉……さん」
(やっぱりこの人ヤバい人だ……逃げた方が良かったかもしれない)
「君! 名は?」
「あ、えっと……タミです」
「タミ? 中々可愛らしい名だね。顔に合ってる」
「可愛くないです」
ちょっとイラッとした。それが顔に出てしまったようで、小吉さんは僕の肩に手を回して言った。
「ちょっとからかっただけさ。何、君は十分男らしさもある。さぁさぁ、案内しよう。夢の場所を!」




