表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十五章 叶えよう、願いを
182/403

叶わぬ思い

―裏庭 夜中―

「じゃあ頼んだよ」

「ん? あぁ……」

「任せて下さい! ゴンザレス様の補助をしっかりとします!」


 ゴンザレスは眠たそうに、小鳥は楽しそうに言った。


「ふぁぁぁ……つーかお前、なんかその格好悪代官みたいで笑えるんだけど」

「国民の富裕層の男性の最近の流行りなんだって……浮いても困るし、あんまり好きじゃないけど仕方ないんだよ」


 金の羽織に、赤の長着、袴は黒で鮮やかな万華鏡の模様があしらわれている。正直、目立ちたがり屋が着るような服であるとしか思えない。服の主張が激し過ぎる。

 どうして、こんなものを好んで着ている人がいるのだろう。その者達と僕は、永遠に分かち合えない気がする。趣味も悪いし。


「あのさ……俺だけじゃ、そんなに不安なのか」


 少し間をおいて、ゴンザレスが不満げに僕を見る。


「見抜く天才が一人来てしまったからね……圧倒的な信頼で補える存在が必要なんだよ。一応、外に行く仕事ばかり入れておいたけど」

「私が、しっかりと役目を全うさせて頂きます」


 小鳥は笑顔だが、凄みを感じる。


「まぁいいや、俺は俺にしか出来ないことはやるから。てかもうマジ眠い。寝たい、死にそう。眠過ぎて頭が痛い。今すぐここで寝れそう。眠いな~あ~眠いな~。もういいか? 寝ていいか? なんかお前の仕事ハードにもほどがあるんだよ。まぁ俺、頭良くて要領も良くて顔も良くて――」


 僕はゴンザレスに手を向ける。瞬間、ゴンザレスはバタッと地面に倒れた。


「え!?」


 小鳥は、ギョッとした表情で僕を見つめる。


「眠たいって言ってたからね、眠らせてあげたんだ。それに、真夜中にゴンザレスの作った声聞くと腹が立つんだよ……じゃあ、夜話した通りに頼むよ」

「はっ、はい!」

「ぐがーーーーぐがーーーー」


 耳を塞ぎたくなるほどの大声で、ゴンザレスはいびきをかき始めた。


「……行ってくる」

「お気をつけて!」


 小鳥に軽く手を振って、僕はフワリと宙を舞う。ホヨから貰った肉もあるし、何かあったらとりあえずこれを食べればいい。


(この手で愚かな風習も、美月の願いも叶えてみせる。絶対に)


 目的地は、男達にとっては夢の場所、女達にとっての苦界――吉原だ。

***

―智 客室 夜中―

「で、きた……」


 絵の具で部屋は汚れた。しかし、今はそんなことどうだっていい。出来た。ようやく絵が完成したのだ。

 先生が線を描き、私が色をつけた。それが先生からの伝言だったから。あの日の浜辺で巽様から聞いてから、私は毎日部屋に籠って集中した。失敗は許されないから当然だ。

 見えにくい目を擦りながら、先生に言われたことを思い出しながら、今自分に出来ることを全てやった。


 先生の新しい作品は巽様の肖像画。私と先生の合作が、巽様が赤のカーネーションを寧々様に渡している様子を描いた絵。しかし、後ろに隠された手には白のカーネーションが描かれている。あの日、あの時の出来事を完璧に写真のように描いていた。

 この作品のメッセージ、それは揺れる心。


(あぁ……先生どこに行ってしまったんでしょう? 先生は気まぐれです。僕が先生からの伝言を守っていれば、きっといつか会えるでしょうか)


 先生と初めて会った日のことを思い出す。

 戦によって、全てを焼かれた幼い私の前に現れた先生。夜の闇から突如現れた金髪の女性に、当時の私は驚きを隠せなかった。生まれて初めて見る髪の色に瞳の色、見慣れぬ服も着ていたからだ。

 泣き叫ぶ私に手を差し伸べることなどせず、戦火を戦火の中で先生は描き始めた。あの衝撃は忘れない。そして、何もかもが灰になった朝、先生は絵を差し出した。その絵は赤く強く無情に焼き払う炎を鮮明に描いていた。

 さらに、拙い日本語で先生は「この炎を忘れてはいけない。ここにあったもの全てを忘れてはいけない」そう言った。この日、私は先生についていくことを決めたのだ。勿論、勝手に。


「ふふ……また一緒に旅したいですねぇ」


 私は窓を開けて、空を眺めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ