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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十四章 秘密を抱えた二人
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あの時の記憶

―綴の部屋 三年前 深夜―

「おじさん、どうしたんですか? この部屋……」


 目を疑った。まず扉が金属製になっているのにも驚いたが、部屋自体が異質な物へと変わっている。真っ暗過ぎて何があるのか理解不能だが、それでもただならぬ雰囲気を感じた。月明りすらも射してこない、本当の闇。


「まぁまぁ……とりあえず一回部屋の中まで行ってみてよ」


(何か、僕の病気に効く物でもあるのかな……?)


 おじさんに言われた通り、部屋の中を見て回ろうと数歩進んだ時だった。


「ア”ア”イ”ダッ”!」


 上から襲って来た激痛。背後から、体全体に広がっていくような鋭い痛み。この一瞬で、気が付いたら僕は床に倒れていた。自分が倒れていたことにも気付かないくらい、何かが起こった。

 身を起こそうとした。しかし、少し体を動かしただけで背中、足、腕から体が分裂してしまいそうなほどの痛みが伝わってくる。次第に血の生臭さが鼻を襲う。


(痛い、痛い、痛い、痛い痛い……)


「あぁ、駄目だよ。駄目駄目、それ以上体動かそうとしたら死ぬよ?」

「し……って……で」


 死ぬってなんで、それすらも言えない。その代わり、口からは血が溢れ出す。


「あぁ、喋っちゃ駄目だよ。今の巽の体には、大きな穴が出来てるんだからね」


(穴……?)


「そう、穴。天井にあった巨大な針が、今の巽の体に刺さってるんだ。駄目だなぁ、巽は……王を継ぐ存在でありながら注意力、危機察知能力が低過ぎる。これは危険だよ。今は平和だけど、いつ血の気の多い野蛮な国が攻めてくるか分からない。王は当然命を狙われる存在だ。王が皆の士気を上げる存在にならなくてはならないのに、これでは巽は呆気なく殺されてしまう。歴史の最後に巽の名前が刻まれて、この国は終わりだな……愚かで弱くて滑稽な王として、ね」


(嫌だ、そんなの嫌だ。僕は父上みたいにならないといけないのに。このままだと僕は父上みたいになる前に殺される……)


「王が皆に迷惑をかけたらいけないだろう……だからこれは巽を強くする為の修行だよ。そして、落ちてくる針に気付けなかった巽には罰を与えよう」


 その言葉の直後、グチャグチャと肉が裂けていく音とバキバキと骨が折れていく音がした。本能的に突発的に声にならない声が出る。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!」


 どうなってしまったのかと、視線だけ動かして腕を見る。しかし、見えない。何も見えない。どこに自分の腕があるのか? 腕はちゃんとついているのか? そもそも僕は生きているのか? 光がないと、何も見えない。怖い。殺される。涙と口から出る血がとまらない。痛みの上に痛みが乗せられていく。


「これに耐えたら巽は強くなれる。そう、兄さんみたいになれる。王様に相応しくなれる」


(強く……なれる?)

 

 その瞬間、背中にズシリとした感覚があった。骨と肉がグチャリと混ざり合って、どこかに弾けていく。痛みも何もかも通り越して、僕は意識を失った。




 この日から、毎日夜中になると僕は自ら進んでおじさんの部屋に行った。強くなれるなら、どんなことだってする覚悟はあったから。


 ある時は、焼き石を乗せられた。

 ある時は、炎の中に放り込まれた。

 ある時は、振り子で体を真っ二つにされた。

 ある時は、無数の鋭い針がある箱に閉じ込められた。

 ある時は、体を裂けるまで引っ張られた。


 それでも、僕は耐えた。熱くても、痛くても、皮膚が裂けても僕は耐えた。強くなる為なら、強くなれるなら、これくらい大したことなかった。それに、目が覚めたら全て何もなかったみたいに元通りになっていた。最初は驚いたが、これは修行の成果だとおじさんは言った。


(もっと強くなりたい……もっともっと強くならなくちゃ……)


 強くなる、それだけが僕の生きる力になった。この修行は父上が王を退くまで続けられた。

****

―綴の部屋 昼―

 琉歌は涙を流していた、眠ったまま。この部屋での出来事を全て見せた。今思えば本当に愚かだったと思う。体が元通りになっていたのは、十六夜が呪術を使っていたからだ。十六夜との出来事を全て冷静に落ち着いて客観的に見れる今、それがしっかりと理解出来た。どうして今まで分からなかったのか、本当に恥ずかしい。

 でも、これがあったから少しは強くなれたと思う。無力から微力にはなった。そして忍耐力が身についた。


(繰り返し僕は殺されたんだ……そして十六夜は自分の命を使って蘇らせた。本当に何がしたいんだよ……)


 僕は眠る琉歌を抱いて、皆のいる本館へと向かった。


(また後で来ないとな……)

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