死と苦痛の部屋
―綴の部屋 昼―
「うわー! 真っ暗!」
真っ暗なだけなのに、琉歌ははしゃいでいる。琉歌はそのまま部屋に走っていこうとした。
「待って」
琉歌の腕を引っ張って、それをとめる。
「ん?」
琉歌は振り向いて、不思議そうに首を傾げる。琉歌には危機察知能力とかないのだろうか。普通、こんな真っ暗闇に恐怖心なく入って行く人はいない。
「死ぬよ」
僕がそう言うと、琉歌は目を見開いた。
「死ぬ? どうして死ぬの?」
「見せてあげるよ」
僕は目を閉じて、部屋全体が明るくなる様子を想像する。そして、唱える。
「我に恵みを与えよ、果てのない闇に温かなる光を」
パチパチパチと、琉歌が拍手しているのが分かる。目を開けると、部屋がぼんやりとだが見ることが出来る。あまり得意でない魔法のため、そう長くはこの光を照らしておくことは出来ない。だが、それでいい。あくまでこの光を灯したのは、何故部屋に入ったら死ぬのかという琉歌の疑問に答える為だったから。
「かっこいいなぁ……この国には沢山魔法があって素敵!」
「そうかな……」
魔法は便利だ。しかし、人は魔法がなくても生きていける。それは、上野国など魔法を使わない国々が証明している。それでも僕らが魔法を使うのは、一度それにすがってしまったからだろう。楽が出来る方に、人は逃げてしまう。
「……ほら、あれを見て」
僕は、斜め上の天井を指差す。そこにあるのは、落ちてきたら一溜まりもない太い一本の針。
「何……あれ」
琉歌は僕の腕をギュッと掴む。ようやく、恐怖を感じてくれたらしい。
「針だよ。あの下を人が通ったら、落ちてくる仕組みになってる。もし、琉歌があのまま走って行ってたら確実にあの針にやられてたと思う」
琉歌の顔が、みるみるうちに真っ青に染まっていく。
「針だけじゃない、この部屋には人を苦しめた上で殺すような物が沢山ある。でもまぁ、見ただけじゃ分からないだろうからさ……僕の記憶を見せてあげる。この部屋の全てを、ね」
僕は琉歌の腕を引き、抱き寄せて唇を重ねた。僕のこの部屋での記憶が琉歌に流れていく様子を想像しながら、心の中で唱える。
(我の記憶、其方に見せよう)
その瞬間、琉歌の体から力が抜けた。




