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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十四章 秘密を抱えた二人
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好奇心

―廊下 昼―

 あの後、小鳥は少し考えさせて欲しいと言ってきた。僕は、誰にも計画のことを言わないことを条件にそれを受け入れた。

 そして小鳥が去った後に料理を分別して、食べられない物をホヨ用に保管し、肉だけを僕は食べた。


 現在、僕はある場所に向かっている。それは、先ほど琉歌が不幸にも見つけてしまった”あの部屋”である。


(あそこに行くと、最悪の記憶が蘇って嫌な気分になるから避けてたけど……仕方ない。自分で呪術のことを知る必要があるし)


 あの扉の部屋は十六夜綴の部屋だ。窓は分厚い鉄で覆われ、光は絶対に差し込まない。暗い暗い闇の中で痛みに叫び、精神的にも肉体的にも追い詰められていく。苦しくても、外にいる人には絶対に声は届かない。そう絶対に。


(忘れたいのに忘れられない……昔のことを忘れるくらいなら、こっちも忘れたいよ)


 ぶり返す体中の痛みに耐えながら、別館の入口に辿り着いた。そして、十六夜の部屋がある方向へと足を進ませようとした時だ。


(誰か……いる)


 人の気配を感じ取り、壁に咄嗟に身を隠す。幸いにも、向こうが僕に気付いているような感じはなかった。僕は、恐る恐る顔だけを壁から出す。すると、そこにいたのは――。


(琉歌……)


 今まさに、入ろうか入るまいかと悩んでいる様子が伺える。先ほど駄目だと一応念押ししたはずなのだが、琉歌の好奇心が勝ったということだろう。薄々そんな気がしていた。

 どうせここでとめても、琉歌は納得はしてくれないだろう。指切りをまたしてもいいのかもしれないが、二回するとどうなってしまうのかが分からないので気が引ける。

 ここは、琉歌にこの部屋の恐ろしさを身をもって体験してもらうほかない。好奇心なんて枯れるくらいに。


 琉歌は、ゆっくりと取っ手に手を伸ばしていく。

 僕は琉歌に気付かれないように息を殺し、忍び足で近寄っていく。僕はこれが得意だ。存在感を消すのが上手な美月に叩きこまれたから。それに、琉歌に気付かれてしまうほど、僕は野暮じゃない。

 琉歌が取っ手に手をかけた時、僕は琉歌の背後に立った。


「琉歌。何してるの? こんな所で」


 そう声をかけると、琉歌はビクッと震えた。そして、壊れた機械のように首をガクガクと後ろに向ける。


「た……巽さん! ど、どうして……あ、私は迷子になっちゃって!」


 しどろもどろに琉歌は答える。


「迷子? 迷子ねぇ……アハハッ」


 僕が笑顔を作ると、琉歌も引きつった笑顔を作る。


「だったら、どうしてこの部屋に入ろうとしたのかな? 入っちゃ駄目って言ったの覚えてるよね? 迷子になったら、言いつけを破ってもいいのかい?」

「う……うぅ……」


 琉歌は、ガクンと項垂れる。


「どうしても……この部屋が見たいって言うんなら見せてあげるよ」

「本当!?」


 さっきまで項垂れていたはずなのに、それが嘘のようにキラキラとした瞳で僕を見る。


(ここにいい物なんて、一つもないのにね)


「……さっきも言ったけど、この部屋に君を満足させるものなんて一つも――」

「ねぇねぇ! 早く見せて!」


(駄目だな、全然話聞いてない)


 好奇心に従って生きるとこうなるみたいだ。僕は少し学んだ。


「分かったよ」


 僕は重い金属製の扉の前に立つ。かつての自分の声が脳にこだまする。恐怖で手が震える。僕は息を吸った。震える手に取っ手を握らせる。ヒンヤリとした感覚が伝わる。

 僕は、それを遥か彼方に吹き飛ばすように力強く取っ手を引いた。

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