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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十四章 秘密を抱えた二人
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指切りげんまん

―庭園 朝―

「僕が……何者か?」


 僕は動揺していた。琉歌の言う初めて来た夜のこととは、恐らく僕があの衝動に襲われていた時だろう。あれから、色々あって気付いた。あの時、琉歌がくれたのは肉だということに。そして、その肉は資料室の前で食べた肉と全く同じ味だった。つまりアレは……そういうことだ。

 もう一つ、そっくりな人というのはゴンザレスのことだろう。僕が高熱に襲われて、約束通りに琉歌の所へ行くことが出来なかったのだ。それでゴンザレスに頼んだのが、まさかバレていたとは。あの時のゴンザレスの様子は明らかに変だったし、利用されていた時期でもあったのでそれが原因かもしれない。

 結果、全てにおいて最悪になった訳だ。



「だって……だって!」


 琉歌は僕から離れ、そして見上げる。琉歌の目には涙が浮かんでいた。


「……秘密があったら僕を愛せない? でも、秘密があるのは君だって同じだろう? でも、僕はそれを聞かないよ。もう決めたんだ、君の全てを守って愛すって。どうしても知りたいのなら、君の秘密も教えて貰う。君があの夜くれた肉のこと、それを食べる君のこと、化け物と呼ばれる君の正体を。君は一体何者なのか……全ての秘密をね」


 僕がそう言うと、琉歌は一筋の涙を流して俯いた。


「……それは言えない。絶対言えないの」

「そうか。じゃあ、僕も言わない。君も言わない。今後一切、聞かない。それでいいね?」


 僕は、琉歌の手を掴んだ。琉歌は驚愕の表情を浮かべて、僕を再び見つめた。


「約束」


 僕は左手の小指を立てて、笑顔を繕った。琉歌は、それを見て唇を噛み締める。そして、小さく息を吸った。それで覚悟を決めたのか、琉歌も小さくか細い小指を立てた。その手は震えていた、当然だろう。


「……うん」


 僕らは小指を絡めあった。これは、大体の人が知っている簡単な契約みたいなものだ。ただ簡単ではあるがこの形で結ばれた契約を破ろうものなら、大人であろうが子供であろうが、男であろうが女であろうが関係なく指を切られる、それが常識だ。

 そして、絡めあった小指を上下に揺らしながら僕は歌った。


「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った!」


 同時に指を離す。スーッと冷たい感覚が小指を襲った。これで契約は結ばれたということになる。琉歌には、初めての感覚だったみたいだ。怯えた表情で、自身の小指をもう片方の手で覆っている。


「大丈夫だよ。約束さえ守れば、その小指が切られることはないから」

「……これも魔法?」

「他国とかでは魔法じゃなくて、ただの風習だけどね。僕らの国では、それを絶対的なものにしたんだよ。まぁ……本当は使ってはいけないんだけど、お互いにとってこれが一番いいでしょ」


 元の風習へと戻すため、父上が行った呪術禁止法。こうすることは、父上の意思に反する行為だろうと思う。だけど仕方がないのだ、これからのことに影響してくることだろうから。

 愛する人でも守るべき人でも、躊躇していられない。


「さてと、じゃあ次は部屋とかを案内しようかな」


 僕は涙を流し続ける琉歌の手を掴んで、城へと走り出した。

―琉歌 庭園 朝―

 私を引っ張る巽さん、まるで純粋な子供のように無邪気に走り出した。その中で私は思い出していた、さっきのことを。


 怖かった。私が秘密を聞くまでは明るく優しく微笑んでいた彼が「教えて」と私が尋ねて顔を上げた時、さっきまでの笑顔が嘘のように冷酷な表情を浮かべていた。

 そして交わされた契約(指切り)。私の知っている指切りとは違った。小指が凍てつくような冷たさと痛み。

 指切りをしている間、巽さんは笑っていた。優しさなんて微塵も感じない、狂気を感じる笑顔で。

 私の知りたかった秘密と巽さんの知りたかった秘密は、お互いに隠された。無力な私に抗う術などなかった。

 そして振り返ることもなく前に進む彼を見ながら、私は決意した。


(秘密も怖い巽さんも含めて、全てを愛するわ……だって私の決めた人だもの)


 心の奥底に、その好奇心を追いやった。

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