木々の騒めき
―庭園 朝―
「凄い! 見たことのないものがいっぱい!」
琉歌は、洋風庭園の中央にドンと構える噴水を眺めながら言った。
「琉歌の所には、絶対ないものばかりだからね……」
僕は、琉歌に城の庭を案内していた。本当は中から色々教えたかったのだが、琉歌が一目散に庭に向かって行ってしまったのだ。
「本に書いてあったけど、よく分かんない宗教があるからだよね? 私は特にああだこうだ言われたことないけど……」
琉歌は、少し不満げに言った。
「え? 君もその宗教を信仰してるんじゃないのかい?」
「ううん、してないよ。ただ、あの国の人はみーんなその宗教を信仰してるでしょ? だから、あるものを着たり食べたりするしかないんだよ〜。だから、私はドレス着てみたいんだ!」
「ドレスってあれか、僕の国でを着てるのは貴族くらいだけど、琉歌がどうしてもって言うなら用意させるよ」
今の琉歌は、どこにでもあるどこにでもいるような格好だ。そのままでは。少し勿体ない気がする。
「本当!? あ、でも男の子みたいなカッコイイ服を着てた女の人達みたいな格好もいいなぁ〜」
恐らくそのカッコイイ服を着てた女の人達と言うのは、使用人の女性達だろう。使用人は一応、戦えるよう動きやすい格好にしているのだ。夏は、睦月や美月も好き好んでその格好をしていたのを思い出す。風通しのいい素材であることと、露出が多いので涼しいのだろう。
僕は、琉歌がその格好をしている姿を想像してみる。地面につきそうなくらいの美しい黒髪をなびかせながら、敵と戦う。その華奢な体からは、想像出来ないほどの力で相手を吹っ飛ばす――。
(……って僕は何を想像してるんだ)
ありえない想像を、僕は首を振って消し去る。琉歌が不思議そうに首を傾げた。
「あ……いや、とりあえず琉歌はドレスにしよう。ドレスがアレだったら皐月みたいなのにも出来るし……」
「皐月ちゃん、ってあの小さい可愛い女の子だよね! 着物みたいな……ドレスみたいな……オシャレな服着てた! ほほぅ~確かにあの格好もありだねぇ」
出来れば琉歌には、着物かドレスか着物ドレスのどれかにして欲しい。アレを着られると、下品な虫が寄って来るかもしれないし。
「案内が終わったら用意しておくよう言っておこう。いつまでもその格好のままじゃぁ、ちょっとね」
「そうだね! 巽さんの後ろを歩いてても、変じゃない女にならないとね!」
そう言うと、琉歌は僕に抱きついた。
「……だから教えて欲しいの。貴方のこと、この国のこと」
「琉歌……?」
琉歌の表情は顔が隠れていて見えない。しかし、声色は暗い。
「ずっとずっと聞きたいことがあったの……あの日貴方が初めて来た日の夜のこと、それと……貴方そっくりの人が貴方のフリして現れたこと……お願いだから教えて? 貴方は一体何者なの?」
夏の冷たい風が僕の頬に触れる。木々の騒めきが、辺り一帯に広がった。




