運命の人
―玄関前 朝―
ついにこの日がやって来た。長い長い時間、僕はずっとこの日を待っていた。琉歌が僕の城に来る日を。
「城門前に到着されたそうです!」
使用人の一人がそう伝達してきた。わざわざこうしているのは、彼女に対して注目を集めない為だ。だから、僕達は玄関で出迎える。使用人、貴族、武者、家族、皆が琉歌を出迎えるのだ。
ただ、周囲を見ると少し寂しい。父上と母上、僕と皐月だけが家族として出迎えることになる。本当なら、睦月も美月も閏もいたはずなのに――。
「巽、顔が暗いわよ。彼女が心配するわ。ほら、スマイル! 笑顔よ笑顔!」
母上がニコッと僕に笑いかける。母上も相当辛いだろうと思う。明らかに、無理しているというのが伝わってくる。
「うん」
僕も笑顔を作る。笑顔作りは、もう職人みたいに出来るようになった。その笑顔を見て、母上も安心してくれたみたいだ。
「ねぇねぇ、兄様?」
皐月が僕のズボンを引っ張る。
「ん?」
「琉歌さんってどんな人?」
皐月は首を傾げる。
「歌が上手で、綺麗で少し不思議な人だよ」
僕は琉歌との少しの思い出を浮かべる。文通、会話……どれも全てが楽しかった。当たり前のことが、何よりも楽しかった。決められた人だけれど、間違いなく運命の人だと直感的にそう感じた。
「皐月早く会いたいなぁ!」
ピョン、と皐月が跳ねる。
「きっと大好きになるよ」
僕は皐月に微笑んだ。
「琉歌様ご到着です!」
使用人がそう大きな声で言った。そしてそれを合図にしたかのように、玄関の扉がゆっくりと開かれた。周囲から小さく歓声が上がる。琉歌は、あの日離れで着ていた高そうな着物ではなく、僕の国でも昔国民達が着ていた着物で現れた。しかし、それでも美しさは変わらない。
「皆様、初めまして! 琉歌と申します! 無事二十歳を迎えました! 未熟者ですが、巽さんの妻として相応しい存在になるため日々頑張ります! 何卒宜しくお願い致します!」
琉歌は、そう大きな声でハキハキと言って深く頭を下げる。その間に僕は、琉歌の真正面へと向かう。
「琉歌」
僕がそう声をかけると、パッと顔を上げる。その表情はとても嬉しそうだった。
「巽さん!」
琉歌は、足元を見ずに僕の方へと駆け出した。玄関には一段、段差があって気を付けないといけないのに。足元を確認せずに降りたりしたら、間違いなく段差に驚いてこけてしまう。
前会った時から考えると、琉歌は結構おっちょこちょいだ。つまりこの状況は琉歌に、こけろと言っているようなもの。
「琉歌! 危ないっ!」
琉歌がよろける。咄嗟に、僕は琉歌に浮遊の魔法を使った。
「ヒャッ! あ、危ない~」
琉歌の体は宙に浮いている。周囲からは拍手喝采が巻き起こった。僕は、浮く琉歌を優しく抱き抱えて床へと降ろす。
「こけなくて良かったよ」
「恥ずかしい所を……えへへ、ありがとう」
琉歌は頬を赤くして笑った。するとどこからかヒューヒューと指笛の音がした。誰かが僕らを茶化している。しかし、それに対する怒りは感じなかった。照れ臭かったが、嬉しかった。
(この笑顔だけは絶対に守らないといけない。僕がいなくなっても守られなくてはいけない……絶対に。彼女の全てを守って、愛す)
心から僕はそう思った。




