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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十三章 自分の過去を探る
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番外編 日常

―熊鷹 中庭 十五年前―

「ねーねーくまたこー」


 庭で木陰に座って翼を休める私に小さな少年……巽が構って欲しそうに、私の頬を引っ張る。


「熊鷹だ」


 この訂正は何度目だろうか。まだ五歳とは言えども、同じ間違いを繰り返されるとわざとではないかと思ってしまう。

 現に、私の仕える人がそんな人だ。


「たこ?」

「たか! た・かっ!」

「高ーい!」


 巽は、満面の笑みで両手を高らかと挙げる。馬鹿にしてるのか、馬鹿なのか、どっちにせよ腹が立つ。


「で……どうした」

「あのねーんとねー……僕も、僕の為にお馬さんしてくれる人欲しいの」


 上目遣いで、ねだるような表情で私を見られても困る。


「お馬さん……?」

「うん!」


 巽は大きく頷く。


「お馬さんしてくれるだけの人ならいくらでもいるだろう」

「違うのー違うー」


 巽は地面を小さい手でバンバンと叩き、首を振る。


(何が違うんだ?)


「くまたこは、美月の為だけにお馬さんしたでしょ? 東は、睦月の為だけにお馬さんするって言ってたの。でも、僕にはいないの」


(なるほど……要するに専属の使用人が欲しいってか)


 私が美月の使用人に選ばれて少々経った。この国の王族と呼ばれる人達には、専属の使用人が配属されるらしい。

 そして、その専属の使用人になれるのは勿論少数。その王族に、相応しい能力を持つと認定された者のみ。その認定基準は、選ばれた私にもよく分からないが、認定するのは占い師の老婆だと聞いた。

 

「僕も欲しい、欲しいよぉー」


 私が美月に仕え始めたのは数年前。今の巽より美月が年下だった頃だ。認定に主の年齢は関係ないのだろう。だとすれば、仕える側の年齢……となるが多分それも違う。

 現国王の使用人は百歳を超えている男性だし、妃の使用人はまだ十代の男性だ。その長女の使用人は同い年であるし、私と美月は一回り年齢が違う。それぞれ年齢は異なっている。


「もうそろそろじゃないのか」

「もうそろそろっていつ〜?」

「何度か日が昇ったくらいだ」


 自分は興味を持ったこともなかったので分からないが、こう言えば間違いはないだろう。でも、少し気がかりではある。王の後継者である巽に専属の使用人がつかないのは、これからのことに色々支障が出てきそうなものだが。


「分かんないよー」

「嗚呼、まぁ時が来れば分かる。その時がいつ来るかは分からないが、とりあえずいい子にしないとどんどん遅くなるぞ」

「えっ!?」


 私がそう冗談で言うと、巽は完全にそれを信じ込んでしまったようで、涙目になった。何かやったのだろうか。


「どうしよう……美月に言われて、くまたこのお部屋にあった日記持って来たのに! 悪いことしたら、美月がお馬さんしてくれるって言ったの!」


 そう言うと、巽は私の見慣れた青い表紙の日記を差し出した。


(嗚呼……この子は馬鹿なんだな)


「クソガキがぁああああ! それに私は熊鷹だと言ってるだろうがよぉおおお!」

***

―美月 中庭 十五年前―

「大成功」


 熊鷹に、追いかけ回される巽を見ながら飲む牛乳は美味しい。多分この後に、私の方にも被害が及ぶのは目に見えている。


「楽しくなりそう」


 私は好きだ、この日常が。

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