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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十三章 自分の過去を探る
168/403

優先順位

―小屋 夕刻―

「「「ああああああああああ!」」」


 族達の悲鳴が僕の耳に届いた。僕が小刀で切ったり、刺したりした時に既に騒いでいたのだと思うが、僕には聞こえなかった。

 目の前の男は頭から血を流し、皐月の隣の男は手首を掴んだまま悶えている。倒れていた男は、微動だにしていない。もしかしたら、殺してしまったかもしれない。


――君は悪くない。悪いのは賊だよ――


(そうだ……僕は悪くない。悪い訳がない)


 声は正しい、迷う僕を適切に導いてくれる。


(とにかく、こいつらがまた変な気を起こす前に皐月と閏を連れて逃げないと……)


 しかし、体が重たい。今までとは違って呼吸をしている感覚はあるが、詰まっているような感じがする。


「兄様! しっかりして!」


 皐月が僕の背中をさする。


(とりあえず皐月は無事らしい……問題は閏だ。さっきからビクともしない。それに一番血の匂いがするのは……閏のいる場所からだ)


「はぁ、はぁ……閏は?」


 息に近いような、声とは呼べない声が出た。


「魔法を使うなって言われたのに使ったから……ここに来る前に何度も地面に殴りつけられて……皐月が助けてあげないといけなかったのに……怖くてっ! 何も出来なかった……」


 皐月は大粒の涙を流し始めた。一体どれほど怖くて、どれほど苦しかったか。幼い子供が初めて外の世界に出て見せつられたのが、弟の悲惨な姿。こんなにも最悪なことはないだろう。


「皐月は……悪くない。悪いのはこいつらじゃないか」

「皐月があの穴を見つけたことを閏に言わなかったら……ちょっとだけなんて言わなかったら……全部皐月のせい!」

「違うっ!」


 その時、扉のあった方に人の気配を感じた。振り返って見てみると、そこにはゴンザレスがいた。


「……お前、なんでいるんだよ? まぁ、それはいい。これ全部お前がやったのか?」


 その声から感じたのは、怒り。


「閏は違うよ……僕が来た時からずっとこうだったんだ……」


 ゴンザレスは、一切の迷いなく閏の方へと歩む。


「こいつらを倒すより先に、することあったんじゃねぇのかよ」

「先に倒さないといけなかったんだ。皐月の命が危なかったんだ」


 僕がそう述べた時、ゴンザレスは崩れ落ちた。


「そうかよ……だったらなんで放置してんだよ! こっちも命が危ねぇじゃねぇか! 弟だろうがよぉぉおお!」


 ゴンザレスが床に向かって思いっ切り拳を叩きつける。床が、ミシミシッと嫌な音を立てた。


「体が動かないだけなんだよ……出来たら、今すぐにでも抱き抱えて城に戻ってる」

「兄様、瞬間移動使ったから……」


 皐月がそう言った。僕を庇おうとしてくれているのは伝わる。


「あ? 瞬間移動使っただぁ? だったら、それ使って二人連れて帰れるじゃねぇかよ! わざわざぶちのめさなくてもさ! お前は優先順位を間違えてる!」


 そう絞り出すような声で叫ぶと、ゴンザレスは必死に慣れない治癒魔法を使い続けた。



 その後、すぐに武者達がやって来てこの場を処理することになった。賊は金目当てで、最初は城に侵入しようとしていた。そこに偶然現れた二人を利用することにしたらしい。

 皐月は大した怪我はなかったが、問題は閏だ。頭を強く打ちつけられたことによって、生死の境を彷徨っている。

 僕は、あの時のことをあまり思い出せない。いや、思い出したくないのかもしれない。どうやって僕はあの場所に向かったのか、誰に聞いて向かったのか。あの小屋で僕がやったことも思い出せない。ただ僕のやったことを皐月から聞いて、頭が痛くなっただけだった。

 そして、当然あの穴は塞がれることになった。

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