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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十三章 自分の過去を探る
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乱暴な風

―医務室 夕刻―

「……ださい。お……下さい! 巽様ってば!」


 体が揺れている。いや、正確には揺らされているというのが正しい。僕が重たい瞼を開けると、そこには興津大臣がいた。


「ど……どうしたんだ? 一体なんだよ……」


 今のこの状況を理解する為に自分の記憶を整理したいのに、ずっと揺らされていてはそれが出来ない。


「た、大変なんです!」

「大変って何が?」


 興津大臣は、切羽詰まった様子で僕を揺らし続ける。もう起きてるのだから、揺らす必要などないと思うのだが。


「大変なんですよぉぉぉぉ!」


(だから、何が大変なんだよ……)


「落ち着いてくれないかな……そもそも、僕は今のこの状況に理解が及んでないんだ」

「へ!? あ、すみません!」


 やっと、興津大臣は僕を揺らすのをやめた。僕は体を起こして、記憶を辿る。

 海にゴンザレスに無理矢理連れて行かれて潜った。案の定、泳げなくてゴンザレスに引っ張って貰いながら前に進んだ。そして、辿り着いた先にはただの歌う貝があるだけだった。

 ゴンザレスに怒りを覚えたが、そこからおかしなことが起こった。目の前の歌っている貝は二つだけだったのに、僕の頭の中から響く歌は四つくらいの声の重なりを感じた。

 動揺してしまった僕は口を開いてしまって、ゴンザレスに上へと引っ張られる前に気絶した。で、気絶したまま帰って今に至るということだろう。


(最近、僕気絶し過ぎじゃないか……? なんか変に怪しまれそうで嫌だなぁ)


「皆は?」

「皆さん……その……二人を探しに……」

「二人?」


 医務室の藤堂さんや、小鳥がいないのもその為なのだろうか。


「はい……閏様と皐月様を。ずっとお姿が見えなくて……それで、一時間前に閏様の専属の使用人の方が壁の穴を見つけたんです。その先に道があったんです。そこに皐月様の装飾品があって……それと血痕も」

「――え」


 時が止まる。皐月と閏の好奇心の抜け道は、悪意へと繋がっていたのだ。血痕があるということは、二人が負傷している可能性がある。


「巽様には、余計な負担をかけたくないから言うなって言われていたんですけど……そんなの間違ってますよね? 王がこの国で起こっていることを隠されるなんておかしいですよね? 弟達の命に関わることを、隠されるなんて絶対に変ですよね?」

「どうして……何があった?」


 沸々とこみ上げてくる怒りが体を埋め尽くしていく。何故、穴を塞がなかったのかという自分への怒り。手薄な警備への怒り。気付けない使用人への怒り。王である自分にそれを隠すという怒り。そして――二人を傷付けた愚かな者への怒り。


「誘拐です。身代金を要求されています。恐らく賊でしょう。何故、城周辺の森にいたのかは疑問ですが……計画的な犯行だと皆が推測しています。ほとんどの者が捜索に――」

「――僕がやる」

***

―興津大臣 医務室 夕刻―

 風が吹き荒れた。乱暴で普通の人間なら恐怖を感じる風。この部屋が吹き飛んでしまいそうなくらい、強力だ。綺麗に整理されていた紙が舞い、窓が粉々に砕け散る。本棚が倒れて、机が吹き飛ぶ。


「頑張って下さい! 巽様しか出来ないって思ってますから!」


 黄色く目を光らせる目の前の王様に、私は言葉をそう投げかけた。それに対する返答などはなく、無言で窓があった場所から王様は飛んで行ってしまった。


「……笑える」


 風の原因がいなくなったと同時に、部屋は大人しくなる。私は暇なので、この部屋の整理整頓をすることに決めた。

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