色づけを
―浜辺 昼―
「酷いじゃないですか~ミニトマトを投げるなんて! ミニトマトが可哀想ですよ!」
智さんは、眉を吊り上げた。
(そっちの方を気にするのか……)
「ごめんなさい。ちょっと皆の前では言いにくいことがあって……」
「言いにくいこと?」
「えぇ、まぁ。シャーロットさんの手紙の件なんですけど……読めましたよ」
僕がそう言うと、智さんは僕の両手を握って激しく上下に揺らす。
「本当ですか!? な、なんて書いてあったんですか!?」
その勢いに僕は少し引いた。しかし、智さんにとってそれくらい嬉しいことなのだろう。僕は、手紙の内容を思い出しながら口を開く。
「書いてあったこと……確か『これは最初で最後の共同作業。私が描いて智が塗るの。もう智は弟子じゃなくて一人の画家になるの。大丈夫、智は私よりずっとずっと才能がある。元々持っている才能よ。私なんかとは違う。目的の為の手段として、いい隠れ蓑になるから始めた私とは違う。強く生きて、家族と仲間のために。いつまでも怯えていたら駄目よ』って僕の記憶の中ではこうなってました。もしかしたら、ちょっと違うかもしれませんけど」
ホヨが読み上げた声を頭の中で必死に再生する。こう見えても、音の記憶力には自信がある方だ。映像や昔過ぎるのは流石に覚えていないが。
「……なるほど! つまりはそういうことなんですね! だから色がなかったんだ……先生」
智さんはそっと目を閉じた。何かを思い出したのか、少し口角を上げる。潮風が強く吹き始めた時、目を開けた。
「ありがとうございました! 私頑張ります! 先生の為、仲間達の為に!」
彼は僕の手を離すと、大きく背伸びをした。
「頑張って下さい」
(僕にはよく分からないけど……変なことじゃないよね? 普通に絵だよね?)
十六夜に協力していたシャーロットさんことだから、何か他に変なことを企んでいるのではないかと思ってしまう。ただ、聞いた限りでは間違いなく絵に関することだ。その絵に変な細工とかしてなければ、智さんには普通に作品を完成させてくれってことだろうし、気にし過ぎは良くないだろう。
「燃えてきました! で・す・が、今は泳ぎます!」
智さんは、軽やかな足取りで一人海の中に飛び込んでいった。
(燃え尽きそう……さて)
一人で楽しそうな智さんは放っておいて、僕は皆の所に戻ることにした。泳げるということを証明しなくてはならないし。
遠くの皆の様子を確認する。ちょうど片付けをし始めているようだ。ゴンザレスだけは砂浜で寝転んでいるが。
「手伝うとかそういう発想はあいつにはないのか……」
まるで、自分がそうしているかのように思えてきて腹立たしい。弥生さんですら椅子を畳んだりしているのに、情けない。
この苛立ちを砂浜に踏みつけながら、僕は皆の所へと向かった。




