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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十三章 自分の過去を探る
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野菜も食べないと

―浜辺 昼―

「あ~食った食ったぁ!」


 ゴンザレスは砂浜で寝転びながら、腹部を何度か強く叩いた。


「これが最近巷で有名なバーベキュー! 巽様お肉好きなんですね!」


 弥生さんの指摘に、僕はドキッとしてしまった。


「お野菜もしっかり食べないといけませんよ! はい、どうぞ」


 小鳥が皿に残っていた最後の小さいトマトを、僕に差し出す。野菜も食べて欲しいという、ただ純粋な笑顔が僕に負担を与えてくる。


「あ……あぁ……」


 とりあえず受け取ったが、口に運ぶ勇気がない。もしかしたら、嘔吐してしまう可能性もある。これをきっかけに、また体がおかしくなってしまうかもしれない。


「ジーッ」


 隣からの露骨な熱い視線を感じた。ゆっくりとその視線の方へ向くと、智さんが「ジーッ」と言いながら僕を見ていた。


「ど、どうかしましたか?」

「最後の一つ。私、食べたかったです」

「あ、じゃあ食べます?」


(助かった!)


 喜んで僕はそれを差し出す。食べたい人に食べられる方が、食べ物も幸せだろう。


「彼は既に四十個食べてます。よって、一つも食べていない巽様が食べるべきです」


 僕の真向いに座っていた熊鷹が、両手で数字を表しながら言った。


(余計なことを……)


 僕達が食べた個数までしっかり覚えているのが、熊鷹らしいとも思ったが今は凄くやめて欲しい。僕があんな風に言ったことに対しても苛立ちを隠しきれていないし、明らかに僕に対する嫌がらせだ。


(僕が野菜嫌いだと思ってるのかな? 昔は普通に食べれていたけど今はどうしても無理なんだよ……こういう嫌味っぽい感じ、美月にそっくりだ)


「なんでこの人こんなにおこなの? 戻って来た時から思ってたけど」


 熊鷹の隣のゴンザレスがムクッと起き上がり、気まずそうに笑った。


「二人共何かありましたか?」


 小鳥が心配そうに僕に問いかける。


「さ――」

「何もなかった。何もなかった。別に怒ってもないし、普通だ」


 熊鷹が割り込んで、言い捨てるようにそう小鳥に返答した。


「ん~……」


 小鳥は不満げな表情を浮かべながら、考え込むように俯いた。


「あの……くれないですか?」


 隣の智さんは、ウルウルと涙を滲ませた。


(智さんと二人で話したいこともあるし、今が一番いい機会なんだけどこれだけ人がいると難しいんだよねぇ……あ、そうか)


「あげます、よっ!」


 僕は腕を思いっ切り振って、遠くに小さいトマトを飛ばした。真っ赤で小さいトマトは綺麗な曲線を描いて遠くへ消えていく。


「あーーーー!」


 智さんは椅子を蹴飛ばし、小さいトマト目がけて一目散に駆けて行った。かなりの距離があったのにも関わらず、智さんは一瞬で追いつき地面に落ちる寸前でそれを口で捕らえた。


「物真似王足速っ! もう追いついてやがる」


 ゴンザレスがポカーンと口を開けて、その様子を眺めている。


「凄い! 感動!」


 弥生さんは立ち上がって拍手をしている。


「あれが……愛だね」


 僕は、そう言って立ち上がる。

 本当はもっと向こうまで行って欲しかったのだが、智さんの小さいトマトへの愛が強過ぎた故に、僕らの位置から智さんの姿が見える所までしか行ってくれなかった。


(まぁ、これでも十分か。表情とかは見えないし)


 シャーロットさんに託された想いを伝えるため、僕は智さんの所へゆっくりと歩いた。

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