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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十二章 下を向いて前に進もう
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シャーロットからの手紙

―シャーロットの手紙―


 拝啓 親愛なる王へ……なんてらしくないし普段通りに書くわ。一体何から書けばいいのか、と少し悩んだのだけれども全部書けば問題ないわよね。


 まず一つ目、私が十六夜綴と協力した理由について簡単に書くわ。単純に言えばそれは利害の一致、彼の思惑と私の願いが面白く絡み合った。彼は私の異質さに気付いたみたいで、愉快に例の写真を提示した。彼には、もうそれが必要なかったみたい。彼にとっての不要物をくれたってことね。

 でも、それには大きな価値があってこれを上手く使えばたつみんを意のままに操れるって言ったわ。ただし、それを貰うのには条件があった。私が資料室の中に入って、そこにいる生き物を殺すことだった。しかし、その資料室の扉に入った者はもう二度と戻ってはこれない。代償があまりにも大きいけれど、それでも良かった。

 ほぼほぼ彼しか得しない取引だったけれど、私は満足よ。たつみんの肖像画の下書きが描けたから。


 二つ目、私の生涯について語るわね。クソババアの人生になんてたつみんは興味ないかもしれないけど、これはたつみんにとって大きな価値のあるものであると思うわ。まず、私は数百年以上前の英国で生まれたわ。だから本当はクソババアどころの騒ぎじゃないのよ。

 本当だったらとっくに死んでる存在であるのにも関わらず、どうして私は今の今まで生き続けてしまったのか……それは私がおよそ四十歳の頃にまで遡るわ。

 私には夫がいた。優しくて可愛い大切な存在、ずっと一緒にいられるとそう思ってたわ。だけど神様は残酷だった。私に黒死病を与えてくれたんだもの。私は死んだ、その時一度。

 でも、彼はそれを受け入れることが出来なかったみたい。長い年月をかけて彼は私を蘇らせた。彼はおじいさんになっていた、その時では信じられないほど長く生きていた。彼は、私が死んでいた間に生まれた技術を使ったの。魔女狩りの原因にもなったそれは、忌まわしい以外の何物でもなかった。私が蘇ってすぐ彼は死んだ。きっと、私を蘇らせることだけが生きる糧だったんでしょうね。くだらない。私一人取り残されたの。だったら、もう一度死んでやるって、自分の首にナイフを刺した。でも、死ねなかった。毒も駄目、全滅。なら、私が魔女です! って言って殺して貰おうとしたんだけど、火炙りも駄目。彼は、とんでもないことをしてくれたもんよ。私は腹が立って酒を浴びるように飲んだわ。数千本くらいね。で、ずっと飲み続けて酔いが醒めた時、私は私の体に異変に気付いた。体が子供になっていたの! 分かる? この恐怖。もうそこで自覚するしかなかったわよ。私おかしい、もう戻れないって。

 そして私は忌まわしい技術の崩壊を見届けた後、絵描きとして旅をした。何カ国行ったかなんてもう覚えてないけど、最初は大して上手くなかった絵も積み重ねてそれなりに評価されるようになった。それと一緒に彼が遺した資料と、その地で手に入れる技術についても研究し続けてる、これが私の生涯。


 三つ目、忌まわしい糞技術について。もしかしたら、これは聞いたかもしれないけど。この糞みたいな技術を施されてしまった者には副作用があるの。その絶対的に同じ共通点は目に現れる。それは人それぞれであるけれども、私と美月ちゃんの場合は相手を引き寄せるような眼力かしらね? 馬鹿は視力低下。たつみんは……自覚してる? 本人によってこれは自覚がある場合もあるし、ない場合もある。他人に言われて気付くことがほとんどよ。

 気付かれたくないんだったら、そこをどうにかしないとね。正直言ってたつみんは隠すのが下手くそだから勘がいい人には、もう色々怪しまれていそうね。特にあの医者、結構色々探っているみたいよ。気をつけなさい。

 それにしてもこの国は中々危険ね。その技術を施されてしまった者を容赦なく殺すなんて。まぁ当然かしら、だって怖いものね。たつみんの国では古いのがほとんど、新しいのは少ない。だけど、たつみんはちょっと古いのを改良されてる感じがするわ。それに中のが進化しちゃって一人歩き。中々大変、言うことを聞かなくなった化け物をもう一度支配するなんて絶対無理。もうこれはたつみん次第、たつみんの強い意志次第。それに、たつみんに施された技術は人の心の闇や弱さに入り込んで形成されていくわ。性格や思考にまで影響する。皆最終的にそれに吞み込まれて、人でなくなるの。自分の心の中の獣に殺されるの。

 ちなみに今分かってる技術は、感情を封じ込めるものと不老不死、凶暴な動物化、聴力の増大と七色の声、人の血を飲まなければ生きていけなくなるもの、他人の意思を変えるもの……それくらいかしらね。


 四つ目、お酒について。お酒を飲むと、危険。私は見た目が若返るくらいで済んでるけど、美月ちゃんは感情の爆発で魔力のコントールを失うみたいね。たつみんはどうなるのかしら? ちゃんと自制しないと危険な感じね。

 私みたいに数千本飲んじゃ駄目よ。飲むならチョビチョビくらいじゃないと、大きく変化をもたらすから。


 五つ目、あの馬鹿に伝えて欲しいことがあるの。これは最初で最後の共同作業。私が描いて智が塗るの。もう智は弟子じゃなくて一人の画家になるの。大丈夫、智は私よりずっとずっと才能がある。元々持っている才能よ。私なんかとは違う。目的の為の手段として、いい隠れ蓑になるから始めた私とは違う。強く生きて、家族と仲間のために。いつまでも怯えていたら駄目よ、ってお願いね。


 六つ目、たつみんにも言いたいことがあるの。たつみんは若くして王になったわね。きっとそれまでの人生も後継者としてほとんど捧げてきたんじゃない? 正直言って、たつみんの性格では王はとても苦しいと思う。優しいだけでは駄目だから。時に物事を冷徹に判断しなくてはならない、上に立つ者としてね。たつみんの抱えている秘密はあまりにも巨大、一人は苦しいと思うわ。誰でもいいから、心から自分で打ち解けることの出来る誰かと出会いなさい。それがきっと救いになる。

 でも、たつみんにある時間は少ない。それまでに出来ることをやるか、もう全てを投げ出すか。私はたつみんと初めて出会った時に、たつみんの秘めたる力の大きさを感じた。ねぇ、アレは守るためにつけた力? それとも壊すためにつけた力? 一体何から何を? この疑問は私の中で解消されることはないわね。


 最後に、長々と読んでくれてありがとう。これが私の知る限りのこと嘘偽りのない事実。たつみんがこの手紙に少しでも興味を持って知りたいと思わなければ、この手紙の内容は闇の中だったかもしれないわね。他の人が勝手に読んでも、正直分からないかもしれないしね。

 たつみん、たつみんは確かにもう人ではないかもしれないけれど、人としての意識を保つことには長けているはずよ。たつみんは他の人とは違うみたいだから、これは本当に誇りを持って。自身の知りたいことを知る為に、学ぶこと考えること行動することを忘れてはいけないわ。興味を持って前に進むの。それが人が人である理由、人が発展してきた理由。

 私はこの世界がどうなろうと興味がないし、滅んでくれるのなら嬉しい。だけど、それを決めるのは私じゃない、この世界に生きる者だけ。もしそれをたった一人で決めれる存在にたつみんがなってしまったら、この世界は破綻するでしょうね。

 ちなみに、この手紙をたつみんが読んでいる頃には私はまだ生きているわ。だって死ねないんだもの。

 それじゃあ、お元気で。 シャーロット

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