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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十二章 下を向いて前に進もう
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長い夜はまだ明けない

―中庭 夜中―

(今日は星も月も見えないな……)


 こんな時間で、しかも肉体的にはかなりの疲労が溜まっているのにも関わらず眠気というものは一切湧いてこなかった。

 それで綺麗な夜空でも眺めようとここに来てみたのだが、そういう時に限って空は曇っている。雲の切れ目を座り込んで探し続けているが、勿論これは無駄な行為だ。


(どうしたものかな。ホヨはまだみたいだし……かと言って剣術の鍛錬も仕事も利き手が使えないとなると少し難しいし、変な癖がついてしまうかもしれないし……ん?)


 少し落ち込んでいると、後ろに誰か立っているのを感じた。ゆっくりと振り返ると、そこには藤堂さんがいて、僕を見下ろしていた。


「どうされたんですか? こんな時間まで起きていては体に悪いですよ」


 藤堂さんは、そう言うと僕の隣へと座る。


「眠たくないんです。だから、眠たくなるまで夜空を眺めていようと思ったんですけど残念です」


 僕は笑顔を作る。


「珍しいですね。巽様は眠たくなるまで剣術をすると、美月様がよく呆れながら仰っていましたが……」


 少しギクッとしてしまった。一体美月は僕をどこまで見ていたのだろうか、もしかしたら僕以上に僕のことを知っているのではないかと思ってしまう。もうそれを確かめることは不可能だが。


「そんな気分でもないので……」


 利き手さえ使えれば、喜んでやっていた。まさか、美月にあれほどの力で握られ骨を真っ二つにされてしまうとは思わなかった。


「あ……すみません。美月様の名前を出してしまって……」


 藤堂さんは、僕がこうしているのは美月のことが原因だと思ったのか、申し訳なさそうにそう言った。


(乗っかっておくか……)


「いえ別に……どうしちゃったんでしょうね? 僕と話して急に眠ったと思ったら、そこからずっとなんて絶対変ですよね……」


 僕は、顔を膝に埋める。


「普通に考えればこれは間違いなく魔法なんです。いえ、呪いに近い魔法でしょうか。古代よりあったその魔法……それに対抗するために作られたのが医術でした。しかし、またそれに対抗してその呪いの魔法は改善が加えられていく……イタチごっこだったんです。今、この国ではその魔法は全面的に禁止されいます。でも、少し前まではそうではなかった。それなのに医術はなかった、いや拒んでいた。その魔法に依存していたからでしょう。少しの時の流れでこうはなりましたが……まさかまだ使う者がいるとは」

「詳しいんですね。この国が最初に生み出した……国術だったのが呪術ですから」


 やはり、この人は危険だ。知ってて欲しくないこと、知らなくていいことまでも知っている。


「医術に関わることは常に学んでいます。出で立ちも発展の理由も知る必要があるんです」

「素晴らしいですね、藤堂さんがいなければ、この国はずっと神様とか言う虚像の存在に依存して、それに頼り続けていたと思います。そして父上も死んでいた。国民も治せる病を治せぬまま死んでいたでしょう」


 そう、あの日睦月が観光中の藤堂さんを連れてこなければ父上は間違いなく死んでいた。でももっと早く出会えていれば、まだ父上がこの国を統治していただろう。それくらい、あの病は重篤だった。

 僕は俯き、地面を見る。恐ろしい過去が少し前まであったのだと思うと、顔を上げているのが辛くなったから。


「巽様は、神様は信じておりませんか」

「信じません。どうして天に昇っただけの人間を、神様だと称えないといけないのか疑問です。どうしてその事実を皆知っているのに……」

「人は、信じなければ生きていくのが難しいのではないかと私は思います。創造主と呼ばれるあらゆることを卓越した存在に選ばれ、天へと昇った者ならば、きっとその卓越した力を見せてくれる……そう思いたくもなるでしょう。それを、心の拠り所として生きている者もまたいます」

「その話を聞いてもよく理解は出来ませんね……」


 僕は、顔を上げた。


「うあぁあああ!?」


 すぐ目の前に藤堂さんの顔があった。思わず驚いて叫んでしまう。


「大成功ですね」


 藤堂さんは、にっこりと笑う。


「どうしたんですか……急に」


 こんなことで情けないほど、バクバクと音を立てる心臓を落ち着かせながら僕は言った。


「不意打ちです。ちょっとやってみたかっただけですよ、フフフ」


(美月が異常なくらい不意打ちが上手かったよな……いつも気付けばいたりいなくなったり、不思議な気持ちである場所を向くと、そこにいたりするんだよ……)


「勘弁して下さいよ……」

「ともかく、早く寝て下さいね。眠れなくても、目を瞑っているだけでかなり違うんですよ」


 藤堂さんはそう言って立ち上がり、明かりが灯る城へと戻っていった。


「はぁ……怖いなぁ」


 僕のことについて、何も言われなかったことに胸を撫で下ろした。

 城にある木々が風で大きく揺れ、遠くで梟の鳴き声が響く、長い夜はまだ明けない。

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