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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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あの空の向こうを知りたい

―庭園 昼―

「可愛いお花がいっぱい! うふふ~!」


 ここは、西洋風に作られた庭園だ。人の手によって幾何学的に作られたこの空間は、植物の場所や噴水の場所、全てが整っている。彩りも多くあって、皐月はこっちの方が好みなのだろう。


(僕的には和風庭園の方が、自然をそのまま受け入れてる感じがして好きだけど)


 僕は、庭園にあった長椅子に腰を下ろした。


「はぁ……」


 空を見上げると、雲がのんびりと流れていた。


(嗚呼、いつ振りかな? 空を眺めるのは)


 何もしない時間は今の僕にとって本当に苦痛だった。頭の中で昨日の事を鮮明に思い出して、考えてしまう。


(おじさん、どうして僕を化け物にしたの? どうしてずっと騙していたの?)


 幼い頃から信じていた人。唯一、僕の秘密を知るその人に裏切られ、傷付かないはずがない。僕が見ていたものは虚像だった。その虚像に僕は愚かにもすがり続けた。


(こんな事で悩んでいるから、僕はっ……! 駄目だ駄目だ。強くならないと。大人の世界は汚いんだ。裏切りなんて日常茶飯事だ。これは僕だけのことだけじゃない、誰しもが通る道なんだ。たまたま相手が、あの人だっただけだ)


 必死に自分に言い聞かせる。自分の考えを正しいとか間違ってるとかはどうでもいい、ただ言い聞かせる。心が痛い。

 目から涙が零れ落ちそうになる。だから、もっと顔を上げて涙を抑え込む。そんな時、雲と雲と間から青い空が見えた。


(そういえば、何故、今は星は見えないんだろう? 何故、暗くなってからではないと見えないんだろう?)


 ゴンザレスと出会った夜、星というものを教えてもらった。今まで電気だと思っていたものは星で、しかも、僕らのいるここもまた地球と呼ばれる星なのだとか。

 それまでは、疑問にすら思ったことなかったが、一度知ってしまうと興味を持ってしまうものだ。


(どうせすることもないし、休めという命令なんだ。また夜にでもここにきて星を眺めてみようかな)


 眺めて何をする訳でもない。ただあの輝きを眺めていたい。ちゃんと眺めてみたい。僕の知らないことを知ってみたい。僕の知らない世界の常識とこの世界の常識。一体どうして違いがあるのか知りたい。


(あの空の向こうを知りたい)


「ねぇねぇ~兄様~ねぇってば!」


 我に返ると、僕の膝の上にいつの間にか皐月がいた。


「え? あぁ!?」


 よく見れば、服はかなり汚れてしまっている。


(しまった! 目を離した隙に!)


 グチャッと嫌な音が下から聞こえた。恐る恐る目線をさらに下に向けると、皐月の手には大量のミミズがうごめいていた。そのうごめく様子はとても気持ち悪く、鳥肌が立った。


「いっぱい見つけちゃった!」


 小鳥は、悪戯っぽく笑った。そこに悪意などない。


「は、早く元の場所に戻すんだ!!」

「え、兄様ミミズ好きなんでしょ?」

「はっ!?」

「美月姉様がそう言ってたもん!」

「み……美月……」

「元気になって欲しいから! これあげる!」


(やられた! しかも悪気のない皐月にやらせるこの悪行っぷり! 一番嫌いな奴を!)


 純粋な笑顔で、手を差し出してくる。ネチャネチャとうごめくミミズが迫ってくる。


(嫌だ嫌だ……でも、皐月が……)


 キラキラと宝石のような目で僕を見つめる。


(僕をそんな目で見ないでくれ……)


「はい! 兄様!」

「あ、ありがとう……」


 僕は敗北した。勝てる訳がない。こんな純粋な相手に。

 僕の手の中でうごめき、グチャグチャと音を立てるミミズ。唯一の救いは、包帯によって直接触れずに済んだことだ。

 が、魂が抜けるか抜けないかの瀬戸際に僕は立たされている。極悪非道な美月の手によって。


(これは僕に対する挑戦か? 子供の時みたいなことするね。いいさ、なら受けて立つ! でもまずはこの手の中のミミズをどうにかしないと……!)


 刹那、腕にヌメッとした感覚を感じた。それは、ゆっくりゆっくりと腕を伝って――。


「あ、ミミズさん入ちゃった!」


 腕に目を落とした時、茶色の尻尾が袖の中にちょうど吸い込まれるように消えた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

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