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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十二章 下を向いて前に進もう
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待っているもの

―自室 夜―

「うおぁっ!?」


 僕が部屋の扉を開けると、ホヨが勢い良く僕に飛びついた。


「ホヨ~! 待ってたホヨ~!」


 ホヨがペロリと僕の頬を舐める。完全に犬だ。


「元気だね、ホヨは」


 僕は、ホヨを抱えて部屋に入る。机には恐らく小鳥が置いてくれたであろう料理が見えた。


「ホヨ……ここに人来たよね」

「ホヨ?」


 僕は、他の人にホヨを飼っていることを言っていない。何の為に、飼っているのかとか詮索されては困るから。


「その時、ホヨはどうしてたの?」


 僕はホヨを見つめる。ホヨは首を傾げていたが、ようやく質問の意図を理解したのかしていないのかは不明だが、思い出すように言う。


「ホヨ!? って思って思わず姿を消したホヨ。女の子が悲しそうな顔で料理を置いて帰っていったけど、あ! ちゃんとお出迎えしてた方が良かったホヨか!?」


 ホヨの目がウルッとし始める。


「違う違う、それでいいんだよ。言い忘れてたんだけど、そっちの方が助かるんだ」

「良かったホヨ~……」


 ホヨは安心した様子で息を吐いた。


「そうそう、ホヨ、深夜にお疲れ様。ちゃんとやってくれたんだね、一体どういった手段でやったのか疑問なんだけど……」

「ホヨ達はなんでも出来るホヨ! いざとなれば人間の姿にもなれるし、姿も消せるし、神様の使いとして当然ホヨ!」

「人間の姿にまでなれるのかい?」

「ちょっと疲れるけど、なれるホヨ!」


(これはかなりいいことを聞いたな……どっちにしてもやって貰う予定だったけど、これでなんの向こうも混乱しないだろう)


「なるほどね……じゃあホヨにまた頼みたいことがあるんだ」

「ホヨ?」


 ホヨは、キョトンと首を傾げる。


「城下町の少し外れた所に、御霊村っていう村があるんだ。そこに亜樹っていう女性がいる、僕と同い年の。その人に文字を教えてあげて欲しいんだ、出来るかい?」

「任せてホヨ!」

「ありがとう。あと、ついでにその裏山に行ってなんでもいいから適当に動物を狩ってきて欲しいんだけど……」


 同じ動物のホヨに対して、こんなことを頼むのは少し酷な気もするが、手段として選んではいられない。あそこの肉が一番美味しいし、どんな回復魔法よりも回復するのが早いんだからそっちを選びたい。

 すると、ホヨはなんの迷いもなく大きく頷く。


「分かったホヨ~! ホヨのライバルだった女性に変身していくホヨ!」

「らいばる?」


 何を言っているのだろう。僕が理解していないことなど気付いていない様子で、ホヨは僕から離れた。


「ホヨ~!」


 そして、ホヨがそう叫ぶと、ホヨの体が光り輝く。そして段々とホヨの姿が、犬の姿から大きく変貌して人間の女性の姿になっていった。光が落ち着くと、そこには銀髪の緑色の目をした耳の尖った女性が立っていた。


「本当にホヨかい……?」

「ホヨよぉ……」


 声もまた変わっていて、本当に女性としか思えない。さっきまでホヨホヨ騒いでいた犬にはちっとも見えない。


「ホヨって言わないんだね」

「普段の姿だとついホヨって言ってしまうのぉ~……うふふ……完璧ねぇ」


 ねっとりと染みつくような喋り方をするホヨ。一体この女性とどんな関係だったのだろうかと気になり、僕は問いかける。


「その女性は一体?」

「私達を狩る族種の人でねぇ……特にこの女性が手強くて、何度も仲間が捕えられてきたのぉ……だからライバル。弱肉強食の世界の中で私達は弱者だったのぉ、どれだけ何でも出来ても、それを使いこなせなかったら意味がないわぁって嘲笑ってきたのが焼きついて離れないわぁ」


 そんな女性の姿になって、狩ることを了承するホヨは一体何なんだろう。


「それで狩るんだよね?」

「命令だものぉ、命令は絶対よぉ?」

「そうだね……」


 一切の迷いも戸惑いも躊躇いさえも感じさせない所は、僕も見習わないといけない。


(何かと理由をつけて、迷って優しく甘えたことばっかりしてきたからこうなったんだ。やると決めたことはやらないといけない。迷っていたら悩んでいたら、その間に全てが終わってしまう。だから僕はもうどんな非道な手でも、それが解決の糸口なんだったらやってやる。少し前に決めたことじゃないか……)


 僕は右手に極力負担がいかないようにしながら、椅子に座った。そして目の前にある料理を確認する。肉、野菜や汁物、お菓子など完璧に全て揃っている感じがする。が、正直言って肉以外は美味しそうには見えないし感じない。


「ホヨ……食べるかい?」


 僕は、汁物と野菜の入った皿を差し出す。


「あら、いいのぉ? 喜んで♪」


 ホヨは、嬉しそうに皿を受け取った。

***

―ゴンザレス 御霊村宿屋 夜―

「大騒ぎだな……マジで」


 避難先として選んだこの御霊村で、俺達はひっそりと会話をする。


「いつもどうしても捕まってしまうんですよね、この場合」


 大人の方の小鳥は俯いた。


「その……毎回同じなのか? 起こってること」

「いえ、違います。過去、現在、未来、それぞれは密接に深く細かく絡み合っています。ですから、ちょっとした行動でさえも状況は変化します。今まで何度もやってきましたが、起こる全てが一緒になる訳ではないんです。それが、私にとって一番の苦労と言いますか……悩む所なんです」

「俺達のした行動が合ってるかどうかも分かんねぇってことだよなぁ、攻略サイトが見たい! 誰か作ってくれ!」


 無論、攻略サイトなんてものも、攻略本ってものもない訳で現実の世界は厳しい。


「ですが、今まで起こったことが起きるっていうのはあまり良くないのかもしれません。現に結末は全て一緒でした」

「分岐祭りの結末二つってか。分岐のほとんどがバットエンド……こんなんゲームであったらクソゲー待ったなしだな。めんどくせ!」


(それもこれもあいつがな……一番厄介なのは国までも動かせちまうってことだ。あのまま行くと、俺以上の糞人間になっちまう! もう糞だけど)


「巻き込んでしまってごめんなさい……」

「あぁあああ! 違う違う! そーゆーアレで言ったんじゃねぇんだって! それぞれいた世界に一緒に帰ろうって言ったのは俺だぜ?」

「帰れるんでしょうか……」

「バーカ! 帰れるまでやればいいだろ」


 一緒に帰る、この言葉は最初この世界にくる時に思わず言ってしまった言葉だ。泣いて傷付いてボロボロだった小鳥を励ましてやりたいとひさしぶりに心の底から思ったから。それが、恩返しだと思ったから。

 廃人だった俺には、心が壊れていた俺には小鳥が生きる光に見えた。


(俺は帰っても待ってるのは……激しい痛みと死か)


 が、今はそんなことは関係ない。自分に今出来ることやるだけだ。救いたい、助けたい、守りたい、それは俺も小鳥と一緒なのだから。

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