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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十一章 もう戻れない
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出ておいで

―廊下 夜―

(自己解決したみたいだったけど……なんか怖かったな……)


 言いたいことを僕に全て投げ捨てて、興津大臣はすっきりした様子でフラフラとどっかに行ってしまった。訳も分からず、ぶつけられたこっちとしてはモヤモヤしか残っていない。


(彼って誰だ? あの感じだと僕の知ってる人? 女……いなくなった人? 駄目だ、さっぱり分からない)

 

 ごちゃごちゃとした恋愛話は僕じゃなく、その辺で噂話をしている女性達にした方がいいと思う。多分、今回のことも噂になって城に蔓延する。

 正しい情報に尾びれが付いて誇張され、滅茶苦茶になっていく。大袈裟に大胆な噂話が広がるだろう。別に、そのことを僕は咎めようとは思わない。


(人の噂も七十五日ね……その頃にはきっと僕はいないかもな)


 そんなことを考えながら、自室のある廊下を歩いていると激しく扉を叩く一人の茶髪の男性を見つけた。ドン! ドン! ドン! と力強く中にいる相手に絶対に届かせる為の叩き方だ。


(あの部屋は美月の? それに、あれは美月の専属使用人の熊鷹くまたかじゃないか……また大変そうだな。どうしたんだろう?)


 彼は、使用人には珍しく鳥族出身の者だ。鳥族は空での活動を好み、陸での活動は拒む。だから、城で働くとなると飛脚所か武者として空での戦いにのみ参加する者がほとんどだ。

 だから、このような戦いをしない使用人の鳥族は、今の所熊鷹しかいないと僕は把握している。


「美月様! いつまで引きこもっているつもりですか! いい加減出てきなさい! コラ!!」


 荒々しく扉を叩く度に、熊鷹の背中が起伏を繰り返している。普段は抑えている鳥族としての本来の姿が、その本人の抑制の力から抗おうとしている。


「どうしたんだい?」


 恐る恐る、僕は熊鷹に話しかけた。


「あぁ巽様、こんばんは。今までの通りですよ、何度説得してもお部屋から出てこられないんです」


 熊鷹は大きく項垂れる。


「え……?」


 そんなこと僕は聞いていない、今聞いた。


「それっていつから?」

「いつから? その日も、巽様がここにいらして説得されてたじゃないですか」


 熊鷹は、不思議そうに首を傾げた。


(しまった……そうだった、ゴンザレスが代わりに……)


「記憶が曖昧なんだ、説得したことは覚えてるんだけど、時間間隔が……」

「そうですか? えーっと確かアレです。資料室の前で残忍な事件が起こった後……本当に急で……これから婚約者様とのことで色々あるというのにこの調子では……もう一度巽様からもお願い出来ませんか?」


 熊鷹は、申し訳なさそうに頭を下げた。


「分かった。でも今までと同じ結果になりそうだなぁ……」


 美月は、何を思って部屋に閉じこもっているのだろう。あの事件について何か知ってしまったのか、それとも城で化け物が暴れたということが恐ろしくて出てこられないのか、本当の所は美月にしか分からない。

 僕は、美月の部屋の前に立つ。そして、小さく深呼吸をした。


「美月? どうして出てこないんだ? 皆も困ってるから早く出てきなよ」


 と、僕が言っても美月からの返答はない。


「美月ってば!」


 僕は思いっきり扉を一回叩いた。いや、正確には掠った程度だった。何故なら、扉が開かれてしまったからだ。

 急に開かれた扉は、真っ暗な闇に包まれた部屋に僕を招き入れた。そして、その闇から現れた手に僕の体は一瞬で引きずりこまれた。

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