表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十一章 もう戻れない
141/403

ホヨ

―秘密基地 夜―

 夏の蒸し暑いある日の夜、僕は人気のない秘密基地へと来ていた。それは、召喚魔法を使うためだ。そして先ほど、やっと芝生の上に生物召喚の魔法陣を描き終えたばかりだ。


「ふぅ……」


 額に浮かぶ汗を手で拭う。七月中旬だから、もうかなり暑い。魔法陣もそれなりの大きさだったため、描くのにかなりの時間を要した。

 そして、僕は魔法陣の外側に立つ。そこで、僕は召喚方法を思い出しながら唱える。


「大いなる天の世界に生まれし者よ。その魂を我のために忠誠を誓い、そして捧げ給え! 出でよ! フィデリタス!」


 詠唱を終えると魔法陣が金色に輝き始める。目を開けているのが、苦しくなってしまうほどにその光は強い。

 少しして、魔法陣の光が魔法陣中央に集まった。その集まった光が、天に向かって真っすぐに伸びて行く。それは、まるで光の柱みたいだった。


(綺麗だ……)


 そう感じることが出来たのも束の間、すぐにその柱は消えてしまった。その代わり、その柱があった場所に一匹の黒い大型犬っぽい生物の姿を確認することが出来た。


(良かった……ちゃんと出来たみたいだな)


 僕は、魔法陣の中にいる生物――フィデリタスに言った。


「聞こえるかい?」


 僕がそう問うと、フィデリタスは勢い良く駆け寄って来た。


「聞こえるホヨ! 貴方が僕のお友達ホヨ?」


 その声は、幼い男の子の声みたいだった。


「友達……?」


(こんな感じの生き物だったっけ……おばあさまの所のは何かもっとシュッとした感じだったような気がするんだけど……)


「そう僕と貴方はお友達ホヨ! 絶対ホヨ! ホヨヨ~ン!」


 僕の足元で、興奮気味にフィデリタスはくるくる回る。


「友達……」

「大事なことだホヨ! 僕に名前を頂戴ホヨ!」


 友達という憧れ続けた響きを唐突に使われて、その言葉を繰り返すことしか出来ない。


「ホヨ……? 雨?」


 視界が霞む。


「涙……どうして泣いてるホヨ? 僕何かしたホヨ……?」


 心配そうに、優しく問いかける。


「分からない……」


 その気遣いが、さらに涙を呼ぶ。どうしてこんなに溢れて来るのか分からなかった。


「僕とは友達になりたくなかったホヨ……?」

「違う。そうじゃないんだ……ただ勝手に涙が……」

「ホヨ……悲しい気持ちじゃないホヨ?」

「悲しくなんてない……ただ生まれて初めて友達が出来たんだ」

「ホヨ! じゃあ、僕が初めての友達ホヨ!?」


 フィデリタスは、ピョンと跳び上がる。


「そうなる……のかな」

「ホヨ~!」

「ぅう!?」


 突然目の前が真っ暗になった。フワフワで温かい。フィデリタスが僕に抱き着いたのだ。


「もう寂しくないホヨ! ホヨヨ~!」

「く……苦しい……」


 べったりと抱き着いていたため、息をする空間がなかった。


「ホヨ!? ごめんホヨ!」


 フィデリタスは、僕から離れる。


「いいんだ。きっと僕は嬉しいんだ。友達って呼べる……犬? が出来て」

「犬じゃないホヨ!」


 怒気を含んだ声で、フィデリタスは言った。


「そうなの? でも事典には……」

「人間達は間違った認識をしてるホヨ! 僕達は神の使いホヨ! たまたま僕達に犬が似てるだけホヨ!」

「へぇ……」


(どっからどう見ても犬にしか見えないけど、本人が言うんならそうなんだろう)


「それより僕に早く名前を頂戴ホヨ!」

「名前? そんなに重要かい?」

「主とする人に初めて名前を貰って契約完了するホヨ! それに名前なかったら寂しいホヨ……」


 シュン、と耳を垂らす。


「分かったよ……う~ん」


(難しいな……急に名前を頂戴って言われてもな……僕そういうの得意じゃないしどうしよう。なんか特徴的なものはないかな……)


 僕はフィデリタスを見る。どう足掻いても犬で、毛が黒くて、恐らく雄で、と色々な特徴を捉えてみるが、いまいちこれだ! というのが思いつかない。


「ホヨ~ホヨ~ワクワクするホヨ~」


(ホヨって鳴き声なのかな? ホヨ? ホヨっていいじゃないか! 本人の特徴もとらえてるし、うんもうこれでいいや!)


「ホヨってどうかな?」


 内心少しドキドキしながらそう質問した。すると、


「ホヨーーーー! 僕の名前はホヨホヨ! ホヨヨ~ン!」


 ホヨは、また自分のしっぽを追い掛けるかのようにクルクルと回り始めた。前よりも速く。


(よく分からないけど……気に入って貰えたのかな?)


「いいかな?」

「勿論ホヨー! 貴方の名前は?」

「僕の名前は宝生 巽。よろしくね」


 僕は必死に笑顔を作った。自己紹介は笑ってするものだと言われたことがあるから。


「巽! よろしくホヨ!」


 ホヨも、舌を出した笑ったように見えた。多分笑ってるんだろうけど、犬のちょっとした動作と変化がなくて難しい。


「ホヨにはね、二つ頼みたいことがあるんだ。呼び出してすぐになんだけど……」

「命令ホヨ!? やったホヨ! なんでもするホヨよ!」

「一つ目はね、たまにでいいんだけど山口村っていうちょっと遠い所にある村に行って色々物をこっそり置いて来て欲しいんだ。その物は後で渡すから。そして二つ目はね――――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ