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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
四章 与えられた休養
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防御が最大の攻撃なり

―中庭 昼―

「兄様~皐月早くお外に行きたいよ~」


 僕の腕の中で、皐月は空を見上げながら言った。

 外に行く、皐月にはそれはまだ許されていない。身の安全の為、監視が行き届く範囲での行動しか許されない。遥か昔からある決まり。

 勿論、僕もそれを経験した。僕が初めて外に出たのは、十五歳の時だった。睦月や美月も同じだ。初めて外に出る時は、神輿のような物に乗せられて、城下町を一周する。それに批判も少なからずあるが、ほとんどの国民は楽しみ受け入れている。

 また、それを見るために観光客も訪れたりする。簡単に言えば、この国の伝統行事だ。


「あと八年くらいかな……何故そんなに外へ行きたいんだい?」


(僕はあまり行きたくなかったけどな。この行事が来ると大人になるってことだ、守られる側から守る側に変わる。それが怖くて不安で嫌だった)


「だってお外は、ここにはない物がいっぱいあるんだよ! 皐月早くそれを見たいもん! 早く、お外を見てみたいな~!」


 足を激しく動かして、声を弾ませる。本当に楽しみなのだと感じる。


「そうか、じゃあ行儀良く出来るようにならないとね。じゃないと、大人として認められないよ」


「う~~」


(そこは嫌なのか……)


 ある程度、庭を散策していると、先ほど僕の目を覚まさせた人物の声が再び聞こえた。


「ぎゃあああああああああ!」

「あ、ゴンザレスだ! ゴンザレス! ずっと特訓してるんだよ!」


 皐月はゴンザレスを指差した。


「騒々しい奴だな……」

「馬鹿者! 魔法が無効化出来てないではないか! 何度やれば出来るようになる!!」

「俺に魔法が使えるって分かってもね! 今までそんなのおとぎ話でしか見たことも聞いたこともなかったんだぜ!? それで急に、はい、こうですよーって言われて、はい、やりますよーって出来る訳ないだろ!? ぎゃあああ!」


 陸奥大臣お得意の炎術で焼かれるか焼かれないか、際どい所でゴンザレスは避けている。勿論、それを上手いことやっているのは陸奥大臣だが。


(あらら、熱そう)


「無効化も出来ないの? ゴンザレスって」


 小さな声でぼそっと皐月は僕に言った。


「初歩なんだけどね、常識が違った世界にいたらしいから中々厳しいんだろう」


 一歩間違えたら、ゴンザレスの丸焦げが出来上がってしまう、つまり僕の丸焦げ……勘弁して欲しい。誰も得しない。


「大変そうだね。陸奥大臣、わざわざ仕事を増やしてしまって申し訳ない」

「おお! 巽様! すっかり夢中になっていて気付きませんでした! いやいや! 私の大好きな仕事ですからね! 大歓迎ですよ! それより、もうお身体の方はよろしいのですか?」

「うへ~やっと休める~」


 陸奥大臣は炎を繰り出すのを止めて、僕に綺麗な敬礼をした。芸術的な美しさだ。

 僕は、皐月を下に降ろした。そして、ゴンザレスはうつ伏せに大の字になって倒れる。


「嗚呼、大丈夫だよ。今は、皐月と一緒に散歩をしていた所だ。そうしたら、熱い鍛錬をしている様子が見えてね。調子はどうだい?」


 ゴンザレスは、顔だけ上げて叫ぶ。


「死ぬわ! このおっさん、容赦なさ過ぎ! 情けもない! 一つの命を消し炭にするつもりにしか見えねぇ! 俺は、防御とかそんなんじゃなくて攻撃を覚えたいの! 攻撃は最大の防御なりって言うだろ!」

「口が悪いよ、ゴンザレス。彼に鍛えられた者は、必ず力を手に入れることが出来る。それに、彼が本気を出していないから、君は今生きてるんだよ。生半可な気持ちじゃないみたいだったから、彼に頼んでやって貰ってたんだけど……嗚呼、やっぱり口先だけだったのかな? そんなので、僕を守るとか言ってたの?」


 口角を上げて、にっこりと笑ってみた。これは挑発だ。挑発的な笑みの作り方講座なんてものはないだろうか、今ならいい手本になれる気がする。


「んがぁ! うぜぇ!」


 ゴンザレスは立ち上がる。


「その表情、超絶ムカつくわ! 俺なんだけど、さっ!」


 ゴンサレスは、真正面から単純に僕に殴るという攻撃をしてきた。勿論、動作も大きいし、何の工夫もないものだから避けるのは容易だ。顔を狙っているというのも分かる。

 それに、僕から見れば行動そのものがゆっくりだ。今まで頑張ってきた甲斐があったものだ。

 

「うわっ!」


 ゴンザレスはよろけて倒れそうになるが体勢を持ち直し、再び僕に向かって殴りかかる。


「攻撃は最大の防御。うん、確かにその通りだよ? だけどね……」


 ゴンザレスは、再び僕の顔を狙う。今度は、下から。


(こんなにも分かりやすい攻撃……笑える)


 それを、僕は軽く跳躍して避ける。


(これで、僕を守るとか……面白いね)


「くそっ!」

「攻撃力が弱かったら、その攻撃によって生み出される防御力なんてゴミ以下だ」


(何度繰り返しても同じこと。分かりやすいんだよ)


 再び、僕に向けられたその拳を受け止める。


「なっ!」


(若干傷が痛むな、さっさと終わらせよう)


「特に君の場合、攻撃に必要な色んなことを最初から学ばないといけない。でも、身を守るということ、人はそれを老若男女問わず基本的に持っている。物を使ってもいい。身を守るってことが、一番簡単だと思うよ」


 ゴンザレスの腕を、しっかりと力強く掴む。


「ぐっ、いてぇっ! お前……」

「僕は思うんだ。どんなに攻撃しても、その攻撃が無意味になったら面倒だって。そして、相手が攻撃する気力を失った所で」


 僕は、ゴンザレスの腕を離す。


「えっ……?」

「自身の力を見せつけるんだ」


 僕はゴンザレスを押すように、手を思いっきり前に勢いよく突き出す。


「うえっ!? んぎょああああ!」

「ま、僕の勝手な考えだけどね」


 そして、ゴンザレスは一番遠くにある壁に派手に衝突した。


「かっこいい! 兄様! 流石でござる!」

「素晴らしい……! とても怪我人とは思えぬ攻防でした!」


 二人は大きな拍手をくれた。本当に、怪我人にしては頑張った方だ。


「これくらいはね」


(手の傷は若干痛いけど……)


 掌を見ると力を入れすぎたのか、包帯の上から血が滲んでいた。僕はそれを悟られないように、背後へと手を隠す。


「それより彼は大丈夫かな、死なない程度にやったつもりだったんだけど」


 魔法の制御は正直自信がない。ゴンザレスに使ったのは、僕が一番得意な風の魔法だ。得意でも、使いこなせている訳でもないのだが。それが昨日の惨状だ。使おうと思ってやっていない、でも窓を粉砕してしまった。


「大丈夫ですよ、よく見て下さい」


 衝突した先で、ゴンザレスがゆっくりと起き上がっているのが見えた。


「あ、本当だ、良かった」

「兄様? 何か言ってるよ?」

「え?」


 耳を澄ますと、確かに何か言っている。が、全然分からない。


「よし皐月、別の所に行こう。今度は皐月の行きたい所でいいよ」

「うん! お花畑見に行きたいでござる!」

「お花畑ですか! 今ちょうど見頃ですからね~。はっはっ! 楽しんで来て下さい」

「嗚呼、有難う」

「ばいばい~!」

「はっはっ! さようなら!」


 彼は再び綺麗な敬礼をした。

 僕は、庭園のある場所へと向かう為、皐月の手を取って歩き出した。


「ざけんなぁ~~~~~~~~~!」


 またも雑音が響き渡った。でも、どうでもいいから完全に無視をした。

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