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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十章 この国を
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見つけ人

―鍛冶屋 昼―

(よくよく考えたら……僕とゴンザレスが入れ替わってることに気付いている人物がいないんなら、このままでも全然問題ないじゃないか。ゴンザレスの能力が少し心配だけどずっと頑張ってるみたいだし、怪我が治ったらそのままこっそりどこかに消えても……)


 と、僕は壁にもたれかかって考えていた。


「おーい! おーい! 生きてる~? それとも無視ってる? 無視? 無視なん?」


(でも、隠れて暮らせる場所ってどこだろう……)


「ねーね、無視せんでやー。これでも亜樹が命の恩人やぞ」


(ひっそりって難しいよな……)


「そういういじりとかほんといいから、マジ」


(それにやっぱり色々不安だ……)


「ああああああああああああああ!」


 甲高い奇声に近い声が、僕を現実に呼び戻した。


「ひっ!?」


 見上げると、半泣きの表情でこちらを見つめる女性がいた。


「ひっ!? じゃないよ! なんで無視するの!?」


(無視? ってことは結構前からこの人いたのか?)


「無視したわけじゃ……」

「亜樹の目を、じっと見たままだったのに無視じゃないっておかしいでしょ!」

「見てましたか?」

「見とったわ!」


(いつの間に? この人も鍛冶屋の人なのかな?)


「ところで貴方は誰ですか?」

「うぅぅああぁ~、それもまた聞いてない? 地味に辛い」


 ガクリと、女性は肩を落とした。


「聞いてないです」

「酷いよね~、鍛冶屋のおじさんもさぁ。亜樹が叫ばなかったら絶対手遅れだったんだよ!」

「君が、僕を見つけてくれたんですか?」


 僕がそう言うと、彼女は目を輝かせた。


「そうです! そうなのです! 亜樹なのです!」

「ありがとうございます」


 僕は彼女に頭を下げた。


「おぉ……まさか普通に感謝の気持ちを述べられるとは……照れる!」

「僕どんな感じだったんですか? 少し聞きはしましたけど詳しく聞きたいです」

「亜樹が裏山で散歩してたら、なんか血痕がいっぱいあったのよね。それで何かあったのかなって思ったのね。恐る恐る辿ってみたら血だまりがあってびっくりよ~、しかも絵になる男がぶっ倒れてて怖くてきゃああああああああってなったの。以上!」


 彼女は、楽しい思い出を振り返るかのように言った。


「なるほど……」


(つまり、偶然血塗れの僕を見つけて怖くなって叫んだだけってことか……)


「それはともかく……貴方旅人?」

「え、あ、はい」

「一体何してたらあんなことになるの?」


 残念ながら僕には、何故どうしてこうなっているのかという正しい記憶がない。資料室の前で惨劇を見て、自分の欲望に囚われて非人道的な食事をした後、急に苦しくなった。そこまでの記憶で終わっている。

 しかし、前にも似たような体験をしたことから何があったかはなんとなく予想は出来た。


(もしかしたら僕は化け物に……)


「ちょっと色々あって……」

「あー!」


 彼女は急に叫ぶ。


「な、なんですか」

「すっごくいい感じの服着てた気がするし、もしかしてすっごくいい所の人? それでなんか命狙われてて逃げてきたけど、急所突かれたからあんな状況に!?」

「そんな劇的なことはしてないです……」

「え~? でも只の者ならぬ雰囲気あるけどね~、亜樹が保障する!」


 ポンと、彼女は胸を叩く。そこで僕は気付く、彼女はぺったんこだということに。


「別に貴方に保障されても……」

「も~誘惑されちゃってぇ~」


 僕の視線に気付いた彼女は、自慢気に胸を張る。別に僕はそんな風に見たわけではなかったのに、変に誤解を与えてしまったみたいで申し訳ない気持ちになった。


「あ、いや……違います。すみません」

「え!? さっき絶対亜樹の胸見てたよ!」

「見てたって言うか……その……」


 僕は、彼女を見ていられなくなって視線を逸らす。


「え!? 何!?」

「いや……でも傷付けちゃうかもしれないですし……」

「そーゆーのが一番傷付けるんだからね!」


 彼女は僕の目線に合わせるようにしゃがみ込む。そうされると、ますます自身の胸のなさを主張しているみたいだ。


「もっと傷付けてしまうかもしれないですよ」

「そういう前フリはあんまり大したことないから!」


 彼女はにっこりと笑う。


(言わなきゃ永遠にこのままか……嫌だな)


「分かりました、言います」

「よし、来い!」


 再び、彼女は胸を叩く。


「ないですよね」


 ちょっとした間の後、彼女は口を開いた。


「何が?」

「胸が」


 僕の言葉の後、彼女の笑顔が消えた。

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