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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十章 この国を
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楽しそうな親子

―? ?―

「ここはどこだろう?」

 

 目を開けると見たこともない場所に僕はいた。地平線が見える、自然が豊かな場所に。空はどんよりと曇っていて暗い。冷たい風が吹き荒れる。

 どうして僕はここにいるのか、ここに来る前は何をしていたのか全く分からない。分からないから、ただ歩いている。そこで気付いたのは、僕が触れた物は色を失うということだ。

 僕が一歩足を進めれば、足が触れた草や花は灰色になる。僕が色を奪っているみたいだ。進めど進めど同じ景色、しかし、振り返れば僕の通った道がよく分かる。


「何してたんだっけ……」


 僕は一度立ち止まって、自身の手を見つめる。僕自身には色が残っている。


「どうでもいいか……」


 僕が、再び歩みだそうとした時だった。


「――――♪」


 風に紛れて、何かが聞こえた。


「ん?」


 僕は耳を澄ます。その音はしっかりと僕の耳へと届くようになった。


「えちほそ~えくむるほなちつ~♪」


 が、その歌詞は僕には理解が及ばない。聞いたことのない言語だ。


「なんだ? この歌は……」


 綺麗な女性の歌声、透き通って美しい。ずっと聞いていたいくらいだ。


――やめろ! その歌に耳を傾けるな!――


 その地面を這うような低い声が、この地全体に響き渡る。


「誰か……誰かいるのか!?」


 しかし、周囲を見渡してもそれらしき姿は見当たらない。


「いーこかつ~のとーま♪」


 耳を傾けるなと言われても勝手に耳に入ってくるし、どうしようも出来ない。


――どうしてこんなにも邪魔が入る? まだ足らないのか……大勢に対抗するほどの力ではない……やはり完全になるまで待つしか……――


 その苦しむような声が響いたと同時に、僕の体は激しい痛みに襲われた。


「ぐううっ……なんだこれ? なんで急にこんなっ……!」


 体が切り裂かれそうな、体が粉々に砕け散りそうな感覚。次第に視界がぼやけて音も消えていく。


「死ぬのか……? 僕は」


 ぼやけた視界は徐々に暗くなり、それと同時に僕の意識はなくなった。

***

―? 昼―

(温かい……)


「兄ちゃん起きたでー」


 僕が目を開けたと同時に少年の声がした。その少年は、寝ている僕をジッと見つめていた。


「え……」


 寝ぼけていたのもあって、ここが一体どこで何なのかというのはすぐに理解が及ばなかった。僕は布団で寝ていて、その隣で僕を見る少年がいる、それだけしか状況が呑み込めない。


「兄ちゃん大丈夫?」

「えっと……うん大丈夫」

「父ちゃん! 兄ちゃん大丈夫だって!」


 すると、壁の陰から少年の父親が現れた。


「あんなひでぇにもほどがある怪我しておいて大丈夫ってこたぁねぇだろ! 血だまり出来てたし、おめぇ、チビの前で強がりたいだけじゃねぇだろうな?」

「違いますって! 大丈……っう!?」


 何てことはないと主張するつもりで体を起こしたら、それだけで体が粉々に砕け散りそうな痛みが襲った。


「ほら~言わんこっちゃねぇ。当分そこでおねんねしてな。ったく……それにしてもかなりいい所の奴感があるが、おめぇは一体何もんだ?」

「えっと……」


(どうしようどうしよう……正直に言うべきか? 言わない方がいいのか? でも誤魔化せるなら誤魔化した方がいいかもな……うん)


「旅をしてて、色々あって気付いたらここに……」

「色々あり過ぎやしねぇか?」

「兄ちゃん、すんげぇ旅してんだなぁ! いいなぁ、父ちゃんオラも旅してぇ!」

「おめぇ旅にどんだけ金がかかるか知ってんのか? それに、昨日鍛冶屋を継ぐって意気揚々と言ったばっかりじゃねぇか。おめぇみたいなブレブレには旅は出来ねぇ、なぁそう思うよなぁ?」


 父親は、僕に対してそう問いかけた。


「え、そうですね……」


(よく分からないけど、そういうことにしておこう)


「あ、その血塗れの服じゃぁ不衛生だから俺の服をくれてやる。布団も洗わねぇとな、っしゃやるか! 兄ちゃんは床で寝ててくれ! だいぶいてぇだろうが、衛生上のためだ!」

「はい、大丈夫ですっ……たたた……」


 僕は、ゆっくりと起き上がって体を横に持っていく。痛みがゆっくり来る感じで結局痛いことに変わりはなかったが、なんとか布団の中から這い出ることに成功した。


(それにしてもここはどこなんだろう? 彼らは何者だろう?)


「あの……すいません」

「ん?」

「ここは一体どこでしょうか? それに貴方達は……」

「旅人は何も知らずにただ旅をするもんなのか!? これは中々深いな、男の夢って感じだ。ここがどこかって言うと、御霊村だ。城下から、ちと離れたとこにあんだ。ここはお前さんみたいな旅人の為の村だからよ、知ってるのかと思ったぜ。俺はここで壊れた武器の修理とかやってんのさ。で、そのチビは俺の息子だ!」


 男性に紹介された少年は、二カッと笑った。


(親子か……)


 ふと、僕の中で父上のことがよぎった。


「なんで急にそんな暗い表情になるんだ?」

「暗かったですか?」

「急にズーンとな。何があったのかはさっぱりだが、この村に来たからにはもう安心だ! 旅人にはたまらん村だ!」

「兄ちゃん、やったね!」


 少年は拍手を僕に送った。


「ありがとうございます……ははっ」


(楽しそうな親子だな)


 僕はそう思った。

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