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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十章 この国を
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喰らい喰らえ

―廊下 朝―

「ハハ……ハハハハハッ……」


 嗤いと涙が自然と零れる。自分の醜さに、自分への恐れに。ただ欲望のままに喰らった後、欲求が満たされて落ち着いた時に、己の行為に怒りと苦しみを覚えた。血塗れになった手が、血塗れになった口が、よりいっそう僕を禍々しく装飾する。

 

「巽様!」


 正面より声がした。ゴンザレスを連れて来た女性の声だと、すぐに分かった。息を切らし、切羽詰まったような声。ドタドタと足音を響かせながら、一人座り込む僕へ駆け寄った。そして、僕と同じように座り込む。血で汚れてしまうことも気にせずに。


「間に合わなかった……ごめんなさい」


 涙を浮かべ、悲しそうに見つめる彼女の姿に僕は既視感を感じた。誰かに似ている、それは以前も感じたことだ。だが、その時は分からなかった。

 でも、今度は真正面からこの悲しそうに涙を浮かべる姿を見て、記憶の中で、ある人物と彼女の顔が一致した。


「……小鳥?」


 僕がそう言うと、彼女はその問いに答えることなく強く僕を抱き締めた。


「早く誰かに言って下さい……ずっとこの世界を生きる誰かに。幼い頃の私でも構いませんから……取り返しのつかないことになってしまいます。その先にあるのは終焉。だから勇気を――」

「君に僕の何が分かる?」

「え?」


 彼女の肩がビクリと震えた。


「勇気、それだけで片付けられることならば僕は勇気を出すさ。だけどね、きっとそんなに優しい世界じゃない。小鳥、君は知っているはずさ。化け物と呼ばれた僕みたいな奴が辿った道を。無事だった奴が一人でもいるかい? いるなら教えてよ、勇気が報われる世界を教えてよ」

「それは……」

「いないんだね。君が一体どうしてこの世界に二人いて、一人は大人になっているのか、色々気になることもあるけど……君がゴンザレスと組んでいるのはこの世界を救う為、でしょ? どうしてもう一人の僕を選んだの?」

「私は選べません。選んだのは扉です」


(あの扉がゴンザレスを選んで、大人の小鳥と組ませている?)


 でも、それではまるで扉に意思があるみたいだ。その扉がこの世界を救えと命令しているみたいだ。


「でも、彼で良かったと心から思います。きっと彼の姿も巽様の――」


 彼女の言葉が突然聞こえなくなった。と同時に激しい頭痛が僕を襲った。しばらくなかった忘れていた痛み、脳を切り裂くような、心臓が今にもとまってしまいそうな痛み。

 僕は、彼女を突き飛ばし距離を取った。その時に、彼女が何かを叫んで口を大きく動かしていたが聞こえなかった。


「う゛あ゛く゛ぅ゛あ゛!」


――力も回復し、他に誰もいない……邪魔者を消せる最大の機会だ――


(こんな所で嫌だ……今から他の誰かが……)


――僕は今最大限の力を使える。その心配はない。さぁ、邪魔者を連れて特別な場所での狩りを始めようか――

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