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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
十章 この国を
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計画

『親愛なる巽さんへ。ひさしぶりだね、中々手紙が返って来ないから心配しちゃった。今日、猫ちゃんを見ました。とっても可愛くてフワフワで……癒されました! しばらく遊んでたら猫ちゃんはどっかに行っちゃった。私も早くここから出たいなぁ。でも、後もう少しで誕生日! すぐに会いに行くから待っててね! それと、巽さんに相応しくなるために、今沢山お勉強をしています。私達の国には存在しないものが沢山あると聞いているので、とっても楽しみです! それではまた会う日まで! 琉歌』


―自室 昼―

「巽様、御用とは一体なんでございましょう」


 僕の前で、一人の使用人服を着た男性が跪いている。彼は、忍者達の長で唯一顔を出して人と会話をする存在だ。普段は、普通の使用人に紛れて働いている。

 つまり、表の顔は使用人。裏の顔は忍者の長であるということだ。彼以外の忍者達は一体何をしているのか、僕は知らないし知る必要もない。あくまで僕は命令を下す側と、彼らはそれを実行する側なのだ。深い所まで知っても何にもならない。彼らの名前も種族も、その個人を知る必要はない。余計な情を彼らに抱きたくない。


「君達にしか頼めないことだ……それより、そろそろ顔を上げてくれないかな。僕、跪かれるのはあんまり好きじゃないんだ」

「承知」


 彼は、素早く立ち上がる。


「ありがとう。それで君達にしか頼めないことっていうのはね……十六夜綴に関することだ」


 僕がそう言うと、彼は少し険しい表情になった。無理もない、十六夜綴はこの国で誰よりも忌み嫌われる存在だ。皆願うなら、その顔も名前も見たくもないし聞きたくもないだろう。


「十六夜ですか……あの貴族の娘と同じように心の浄化をという訳でもないようですね」

「嗚呼、勿論さ。あの二階堂家の娘は、まだどうにかなるかもしれないが、十六夜はそうもいかない。骨の髄まで屑だ。救いようもないし、救う必要もないだろう。救いようのない奴に、救いの手などいらない。だから、十六夜綴を暗殺して欲しい」


 暗殺、その言葉を出した時、僕の心臓はとまりそうになった。例えどんな屑であっても命を奪う行為は、等しく悪だ。ましてや、その行為を他人に頼むなど、それ以上の屑であるのかもしれない。こんな気持ちになったのは二回目だ。

 だが、一々正義だの悪だのこだわっていては、十六夜のいいようにやられてしまう。国が奪われてしまう。その醜いことが歴史になってしまう。それだけは避けなければならない。


「仰せのままに」


 彼はゆっくりと頷いた。


「暗殺に成功した場合、十六夜の遺体は抹消して欲しい。死んだことにすらしないでいい」


 遺体を見たくもないし、わざわざあいつの為だけに、この計画を立てた事実を捨て去りたい。


「日時はいつに致しましょう?」

「お前達に任せる。ただ経過だけは教えてくれ……もし死傷者が出たのなら、それも偽りなく正確に教えて欲しい」

「死傷者ですか……まぁ、出るでしょう。十六夜を討ちに行って綺麗に帰って来た者など一人もおりませんし。ですが、我々はこの家系に生まれたその時から覚悟をしているのです。この命は王のためにあり、王のために捧げる。失って怖いもの、それは巽様、貴方です。それ以外に失って怖いものなどないのです。ですから巽様、どうか待っていて下さい。この命尽きるまで、我々はその命令を遂行し続けましょう。全ては偉大なる巽様のために」


 そう言って彼は、窓からこちらを向いたまま飛び降りた。


(どうしてそんなに笑顔でいられるんだろう? 君は怖くないの?)


 僕は、机の上にある手紙に目をやった。時期はもう七月。この国にとっても、僕にとっても重要な出来事がある。彼女に恐怖を与えたくない。


(仕方のないことなんだ。これは)


 僕は胸に手を置いて、深く息を吸った。

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