見つけた
―美月 廊下 夜―
(陸奥大臣は確かこっちから来たと思うんだけど……)
陸奥大臣が現れた方向の廊下に入り、巽を捜していた。しかし、現時点で見つけることが出来ていない。しかも人がいない。元々使う人が少ない廊下ではあるが、少し不気味な感じがした。
(間違えたかな?)
引き返すか、引き返すまいかと足をとめた時だった。突然、電気が消えた。
「ん?」
が、すぐに電気はついた。しかし、また消える。ついては消えるを繰り返している。次第にその感覚は短くなって、目がチカチカしてきた。
(電気も寿命かしら。でも、廊下にある全ての電気が一斉にこうなるってあるのかな)
不思議に思って見上げると、窓が開いている訳でもないのに、シャンデリアが揺れていた。もし、シャンデリアが蝋燭の火を使った物であったら、大惨事になりかねないほどだ。
ギーギーと音を立てて、電気がこんなにもついたり消えたりを繰り返すのは異常だ。それを見て、私は悟る。
(……私に霊感なんてないけど、ここまで感じるんだから相当ね)
本来の感覚であれば騒いだりなどするのだろうが、私にはそれが出来ない。恐怖という感情が私の中にあっても、それを出すことが出来ないからだ。
自然と出てしまう前に、せき止められて消えて行く感じ。私はその一瞬感じられる感情を顔や言葉で必死に表している。多分ほとんど伝わっていないだろうが。
(何にしても、ここで突っ立っていてもしょうがないわね。巽を探さないといけないんだから)
一歩踏みだした時だった。
「見つけた」
耳元で囁かれたその声には聞き覚えがあった。その声に私は見つけたと言われたが、捜していたのは私の方だ。
私が振り返ると、満面の笑みで真後ろに立っている巽がいた。
「捜していたのは、私の方よ」
私がそう言うと、巽は腹を抱えて笑い出す。
「アハハハハハハハ! そう……」
「私何かおかしなこと言った?」
私はなんとなく分かっていた。目の前にいるのは、巽であって巽ではないことを。
「滑稽……滑稽だわ!」
「やっぱり巽じゃないわね。巽はね、女口調で話そうとすると声が上ずって、ますます女の子っぽくなるんだから」
「ウフフフフ……別に貴方に対しては隠していた訳じゃないのよ? でも、そんな違いまで分かるとは……流石、美月」
巽の目は笑っていない。
「この私に対して、呼び捨てにタメ口?」
「私の時は、まだそんなきまりなんてなかったもの。出来たのは最近かしら? 上下関係がしっかりと見れて素敵ね。巽も成長したのね」
そう言いながら、巽は自身の手を見る。そして、次第にその顔から作られた笑顔が消えていく。
「……どうして」
ぼそりと巽は呟いた。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!! 私の子供や旦那の未来は奪われて、貴方が未来を生きることが許されるの!?」
声が段々と大きくなって、廊下に響き渡る。私に向けられた憎しみの目は、私に対して恐怖を一瞬だけ与えた。でも、その恐怖はすぐに消えた。
「もしかして……貴方」
巽の体を使って私に怒りをぶつけている人物が何者であるか、見当がついた。現在は敬語を使う立場の階級で女性、そして私に家族の未来を奪われた人物。
「思い出して貰えたかしら。私は桐生 茜……かつてこの城の使用人を束ねていた。ほんの数年前まではね! 私はずっとずっと貴方達の為に、この国の為に生きて働いてきた。それなのに……絶対に許さない。ようやく時が来た! 復讐を果たし、貴方の魂を子供と旦那の所へ持って行くわ!」
「やめてよ。巽に人を殺させないで」
巽は嗤った。
「この機に及んで弟の心配? 嗚呼、本当に弟が大好きね」
「当たり前でしょ。それに私今とっても怒っているの」
「私には淡々としているようにしか見えないけれど……別に貴方の怒りなんてどうでもいい。私はこの手で、貴方を殺す」
「この手? その手は巽の物でしょう? 早く返してよ」
(なんて言っても出て行ってくれる訳ないよね。私を殺すまでは。でも、巽の手を汚したくない。無理矢理にでも追い出すしか……確か魂的魔法とか言ったっけ。閏とゴンザレスが一緒に熱心に取り組んでいた記憶があるけど……二人がいてくれたらなぁ)
魂的魔法は、古来より伝わる形を変えずに存在している最も古い魔法だ。成仏や、今のように巽に憑いている魂を追い払うのを基本に、魂を呼んで話したりも出来る。
しかし、その魔法を使える人物は限られている。霊感がある人物か、長い修行に耐えた人物、そして死が近い人物だけだ。
残念ながらそのどれにも属さない私には、何も出来ない。この状況も私には勝ち目もない。
「さあ、覚悟なさい」
巽の手は、私に向けられた。




