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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
九章 母
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落とした筈なのに

―自室 夜―

 その日の夜、僕は手紙を書いていた。その手紙は、琉歌宛ての物だ。慣れない半紙と筆を使うのは難しい。いつも琉歌が半紙で送って来るから、僕も何となくそれに便乗して書いている。だが、達筆である彼女の字に対して、僕の字はミミズのようで気持ち悪い。何年もやっているのに成長が見られなくて辛い。

 しかし、そんなことより気がかりなことがあった。


(すっかり忘れてたよ……怒ってないかな)


 それは、手紙を返しわすれていたことだ。琉歌の仏頂面が想像出来る。とりあえず、文頭に謝罪と事情を書いておいた。もしも彼女が怒っていたら、これで許して貰えるのかどうか不安だ。

 そして、もう一つ僕にはこの手紙を書く上でどうしても気になることがある。


(ゴンザレスが、あの時琉歌ちゃんと会って話したのかどうか……会っていたのなら、正体が違うとバレなかったかどうか……聞くのをすっかり忘れていた)


 今から聞きに行ってもいいのだが、それは難しい。何故なら、ゴンザレスは今も陸奥大臣と鍛錬に取り組んでいる。多分、自主的に頼んだのだろうと思う。流石の陸奥大臣でも、こんな時間までやったりはしない。


(熱心だな……前まであんなに嫌がってたのに)


 来てすぐの時は、嫌々渋々であることが見れば分かるほど伝わった。その割に言うことは大きかった。だから、ゴンザレスに対する不信感が募っていった。今はそれを返上するかのようだ。

 僕は、窓から入るゴンザレスの声を聞く。どこか、楽しそうである。


「しゃああああああ! 見た見た見た!? やっと無効化出来たよ! ヤバいヤバい!」


(まぁ……うるさいことに変わりはないけど)


 思わず笑ってしまった。純粋に出来るようになったことを大声で喜ぶゴンザレスが面白かったから。ゴンザレスが既に使いこなしている魔法よりもよっぽど簡単なのだが、それなりの時間をかけてようやく取得出来たみたいだ。


(楽しそうでいいなぁ……どこが楽しいんだろう。疲れるだけじゃないかなぁ)


 そんなことを考えながら書いていたせいか、隣に置いていた半紙を落としてしまった。ヒラヒラと舞った半紙は、スッと机の下へと消えた。


(……最悪)


 ただ拾うだけなのだが、手紙を書いているこの時に別の動作をしなければならないことに気持ちが萎えた。普通にいつも通りの鉛筆で書くだけなら相当色々楽に書ける。だが、筆は集中力がないと文字が本当に浮いてしまう。

 

「はぁ……」


 僕は一つため息をついて、机の下を覗き込んで落ちた半紙を拾おうとした。だが、


「あれ? おかしいな? 間違いなく落ちた筈なんだけど……」


 半紙は机の下に見当たらなかった。まさかと思い、椅子の下も確認する。しかし、見当たらない。周囲の床も確認するが、やはりない。明らかに落ちたと思ったのだが見当たらない。


(どこだ?)


 座ったまま下を見続けるというのは苦しいものがあったので、僕は一度顔を上げた。


「なんで……?」


 単純に言うと驚愕した。顔を上げた僕の視界には、先ほど落ちた筈の半紙が普通にあったから。


(おかしい。絶対に落ちた。間違い無く落ちていた筈……)


 脳内に半紙が落ちて行く様子が浮かぶ。それにさっきの今起こった出来事を間違える訳がない。今朝起こったことも思い出して、寒気がする。

 僕は、机の上に何故かあった半紙を掴む。


(何の変哲もない……ただの半紙だ。考え過ぎか? いや、でも……)


 こんなことを考えていると、この部屋までもが不気味に感じてくる。誰かに見られているような、誰かが僕の近くにいるような感覚。

 しかも、こんな時に限ってゴンザレスの声がしない。こういう時にやかましくして欲しいのに。


(こんなことで怯えてたら駄目だって……何度言い聞かせれば僕は分かるんだ?)


 自分自身に腹が立つし、情けない。


「お兄ちゃん!」

「う!? ああ!?」


 窓から閏が覗いていた。こんな時に元気良くいきなり来るものだから、弟の前で尻餅をつくという恥ずかしい反応をしてしまった。


「驚かせてごめんなさ……うわああああ!」


 僕を見た閏も何かに驚いた。慌てて手を確認するが、アレが起こっている訳ではなかった。再び窓を見ると、閏の姿がない。まさかと思い、窓から下を覗いた。


「う、閏!? 大丈夫か!?」


 なんと閏は、植え込み植物の上で倒れていた。

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