表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
八章 名もなき人の行方
110/403

最悪の事態

―美月 巽の部屋 夕刻―

(巽はどこ行っちゃったのかしら、なんか扉の前に謎のメモがあったけど)


 扉に『少し用事 遅くなる可能性あり』そう簡潔に書いてあった。私に残したメモではないようなので、そのままにしておいた。


(遅くなるってどれくらい遅くなるのかしら。夜中まで帰って来ないとかなったら退屈だわ)


 巽のベットの上に寝転がる。フワフワとして気持ちいい、今すぐにでも眠れそうだ。前に、巽が一度起きたら眠れないとかほざいていたが、このベットで眠れないのだったらもう無理だと思う。


(元々の睡眠時間もおかしいしね、巽は)


 ぼんやりと巽の睡眠のことについて考えていた。すると、扉を優しくノックする音が聞こえた。その扉は、ゆっくりと開かれる。私は目線だけそちらに向けた。


「失礼致します……って、美月様!?」

「やっほ、小鳥ちゃん」


 小鳥ちゃんは、かなり驚いた様子だ。それは当然だと言える。誰もいないと思っていた部屋に、この部屋の主じゃない人がいるのだから。

 片手にあの簡潔メモが握られている。やっぱり、小鳥ちゃん宛てだった。


「どうして美月様が!?」

「巽と約束してたから。でも来てみたら、今小鳥ちゃんが持ってるメモがあったからいないんだーと思って。でも、帰るのも面倒だからベットの上でゴロゴロしてた」

「実は……お昼の後もそうでした」


 心配そうな表情で、小鳥ちゃんは言った。


「多分、その時は私の所に来てたからいなかったんだよ。でも、今回は分からない。どこ行ったんだか」

「また、あの怖い生き物さんにさらわれていたらどうしましょう!?」


 涙目になって、私を見つめる。


「流石に二回はないと思う。大丈夫。ちゃんと帰って来るわ」


 笑いかけて安心させてあげたいけど、それは出来ない。逆に無理に作れば、気持ちの悪い不気味な笑顔になってしまう。安心どころか、恐怖を与えてしまう。そうならない為に、私は笑顔の作り方を巽から学んできたのに、王になってからの巽ときたらいつも愛想笑いだ。


「そうだと……いいんですけど」


 小鳥ちゃんは唇をギュッと噛んで、机の上に料理を置いた。いい匂いだ。うちの料理人達は本当に腕がいい。お陰で朝から晩までエネルギー満タンだ。


(巽はいつまで一人で食べるつもりなんだろう。父さんもいつまで意地を張るんだろう。二人とも似た者同士だわ、本当に)


 目を瞑って、二人の顔を思い浮かべた。巽は若い頃の父さんにそっくり。昔の写真を見たことがあるけど、今の巽と瓜二つだった。しかし、歳を重ねた結果、あんな渋い顔になってしまったのだ。時の流れは残酷だ。いつか巽もあんなことになってしまうのだろう。


(嫌だ。徹底的に美容について学ばせた方がいいわね)


 呑気にそんなことを考えていた時だった。


「いやああああああああああっ!」


 私の中のほわほわとした空気を悲鳴が切り裂いた。私は何事かと慌てて起き上がる。小鳥が目を見開いて、小刻みに震えながら座り込んでいる。

 そんな小鳥の前には、不気味なほど真っ青な顔の巽が倒れていた。それは、直感的に本能的に”嫌な予感”を与えた。そうであって欲しくないと、考え過ぎであって欲しいと、勘ぐり過ぎであって欲しいと願う。


「小鳥ちゃん、これ何事」


 急いで巽の傍へと駆け寄る。


「分からない……分からないんです。料理をいつも通り机に置いてて、扉が開くような音が聞こえたと思ったら、いつの間にか机の横に巽様が倒れてて……ど、どうしよう◎▲◇♡☆〇●」


 相当パニック状態に陥っているようで、それ以降の言葉は呂律が回っていない為聞き取れなかった。


「なるほど、瞬間移動の魔法を使ったみたいね」


 彼女を安心させることが出来そうなのは、私が冷静であることしかないように思えた。実際、小鳥ちゃんよりパニックなのだが、昼の治療によりそれがもう完全に表せなくなっている為、私にしか出来無いことをやろうと思った。


(私が落ち着いて状況を説明すれば、少しは安心してくれるかな)


 そう思った私は、巽の口の前に手を翳した。そこで事態は究極に最悪であることを悟った。直感的に本能的にj感じた”嫌な予感”が的中してしまった。言わない方がいいと分かっていた。だが、思わず勝手に口から出てしまった。


「息……してない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ