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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
三章 怪しき密会
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痛みが痛みを掻き消して

―空き部屋 夜―

 僕は勢いに身を任せ、部屋の中に倒れ込む。扉は勝手に閉じた。

 顔を上げると、月明かりに照らされた笑顔で僕を見つめる人物がいた。その人物は、十六夜綴。僕のおじに当たる人だ。

 彼は僕に近付くと、目線に合わせるようにしゃがみ優しく頭を撫でた。


「嗚呼、可哀想に。でも、もう大丈夫だ」


「あぐぅ! ぐっ!」


(早く早く早く早くはやくはやくはやくはやくはやく!!!!!)


「自我を保っていられる点は他の者とは違う。流石、王様だ」


 そう言うと彼は、僕の頭から手を離し少し距離を取った。


「ふふ、参るぞ」


 彼は自身の組んだ手を胸に当て、その発する音一文字ずつ叫ぶように唱えた。


()! ()! ()! ()! ()! ()! ()!」


 心を包まれるような感覚、同時に乱れた心が冷静さを取り戻していく。今までも何度もしてもらったことがあるが、今までよりずっと強力になったように感じる。

 僕は再び、自身の手を見た。すると、鋭く伸びた爪や生えてきた毛は徐々に消滅していった。


「はぁ……」


 思わず大きなため息が出た。


「どうだい? 凄いだろう? わざわざ外国に行ってまで修行した甲斐があったってもんだよ。巽の病も順調に行けば治すことが出来る」


 再びゆっくりと僕に近付きながら、彼はそう言った。


「それに関して、貴方には聞きたいことが沢山あるんです。お時間頂きますよ」


 僕は、ふらつく足を使って何とか立ち上がる。


「おやおや何かな、巽」

「民にも同じようなことになっている者がいる。そして、それらの者達は皆、貴方と接触があったと」

「あぁ~その件かい? 巽と同じように誰にも言えず苦しんでいる。それを助けてあげようと頑張ったんだが……まぁ、私が彼らに会った時点でとっくに手遅れだったみたいだ。残念だよ」


 彼の目には涙が浮かんでいた。


「でも、それらのことが起こったのは、貴方が三カ月前に帰国してからです。本音を言うと、僕は貴方を疑っています。もしかしたら、今まで僕を騙していたのではないかと」


(諜報局の者達が調べたことをまとめていた時、おじさんの帰国とその現象の発生の期間が偶然ではないように思えた……どうなのかは分からないけど)


 すると彼は突然、腹を抱えて笑い始めた。


「はっはっはっ! 酷いな! 散々、今も助けてくれた相手を疑うとは。偶然が信じられない、必然だと言いたいんだね?」


 涙を浮かべながら笑うその姿は、正直言って異様な感じだ。


「それは感謝しています。でも、もしこれが病ではなく貴方が引き起こした現象であるとしたら! そう考えると、ますます貴方が怪しく見えてしまうんです」

「なるほど」

「貴方がかつて僕の為にと言って使った魔法は暴走し、結果的に国に混乱をもたらした。それで、貴方が国を追われる身となって逃亡した。王としては、貴方を捕らえなければならない。でも、僕としては助けてくれようとした貴方を咎めるのが心苦しい。ずっと悩んでいたんです。僕がこのことを公表し皆に言えば、それで貴方の責任は少しはなくなる、そう思っていました。しかし、民が僕と同じようになって討伐され、化け物と呼ばれているのを聞いて怖くなってしまった。同じようにされてしまうのではないかと。それを守る為に戦っている武者達の責任にするつもりは、更々ありません。ですが、僕は言う機会を失ってしまったんです。そして、最近……訳あって僕がそのことについての情報をまとめている時、自分の中であらゆることが繋がってしまった。その命を奪われた者、僕……その全ての者に共通することは貴方との接触です。もし、これが偶然であると言うのならそれを証明して頂けませんか? おじさん」


(偶然を証明して欲しい。僕の中で繋がってしまった点を違うという絶対的な根拠を示して欲しい。おじさんは、ずっとずっと僕を支えてくれた人だ、見てくれた人だ。この人を信じたい。どうか、どうか……)


 心で願った。強く、強く。


「……フフフ! アハハハハ! 狙い通り、君の中の獣は飼い慣らすことが出来ても、まだ君自身はちゃんと飼い慣らせていない。その確認が出来た」

「えっ?」


 彼は笑みを浮かべた。その笑みは優しく冷たい。目の前が歪む。呼吸が止まってしまいそうだった。


「別に、巽に恨みがあるわけではないんだがね。もう、君が次こうなればもう助けることは出来ない。巽だって嫌だろう? 私みたいな者と関わるのは。それこそ国が揺らぐ大問題だ。君、いや民、いや国の為を思って言うよ」


 彼は、耳元で囁く。


「この現象に陥いる者はね。心が弱い人だ」


(心が弱いから……僕は? でも、それじゃあ僕は、僕は)


 彼は、僕から離れてゆっくりと歩き回る。


「フフッ、君のお父さんは君によく言ってたね? 心弱き者は王としての責任を負えず、王としての資格がない。フフ、ハハッ……ハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 その大きな笑い声と同時に部屋の窓は一斉に割れ、強い風が吹き荒れた。破片がいくつか僕の頬を掠ったが、その痛みは大したことなかった。そう、僕の今感じている心の痛みに比べれば。


「私は君の味方でもなんでもない。暫くはお別れだ。今度、君に会う時が来たら楽しみで仕方がないよ。それじゃあ、お疲れ様」


 彼は割れた窓から飛び降り、そのまま強風に乗って消えてしまった。そして、その強風は突然収まった。それと時同じくして、扉の向こうから忙しなく走ってくる音がした。音を聞きつけて誰かが来ているのだろう。


(心が弱い、その通りだ。僕は王に相応しくない……)


 僕は、力無くその場に崩れ落ちた。

***

ー綴 上空 夜ー

「巽の信じるもの、全て奪えば君の心を壊すことが出来る。まずは私から。次は誰がいいかな?」

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