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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
八章 名もなき人の行方
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額合わせ

―医務室 昼―

 僕が医務室へ入ると美月がベットの上に座り、藤堂さんがその横にある椅子に座って向かい合っていた。そして、顔だけが僕の方を見ていた。


「誰かと思えば、巽様でしたか」


 藤堂さんは、ニコリと微笑む。美月は真顔である。


「美月はそろそろ起きたかなって、様子が気になって」

「ちょっと前に起きたけど、何か文句ある?」


 昨日はあんなに感情を爆発させていたのに、すっかりいつも通りの美月だ。


「別に文句がある訳じゃないけど……」

「別に気にすることじゃないでしょ。巽には何も関係ない」


 美月が、僕に何かを目で伝えて来ているような気がした。でも、僕には分からない。


「関係ないって……昨日美月が僕を呼んで、それで泣いたりしてたんだから多少は関係あるんじゃないかって思ったんだけど」

「私が関係ないって言ってるんだからないの。私は今、藤堂先生と話してるんだからどっか行ってよ」

「そのような言い方は良くありませんね。巽様も美月様を心配して様子を見に来てくれたのですから」


 藤堂さんは眉をひそめ、美月を諭すようにそう言った。


「じゃあ、私が全部言えばいいのね。そうすれば巽はどっか行ってくれる訳ね。はいはい、分かった分かった。じゃあ言ってあげる。その代わり言ったらすぐにどっか消えて。本当に。私はゴンザレスに勧められてお酒を飲んだ。それ以降のことは何も覚えてない。終わり」


 美月は淡々と早口でそう言い終えると、僕に向かってシッシッと追い払うような仕草をした。その様子を見て、藤堂さんの表情は怪訝になる。


「いい加減にしてくれよ。僕はただ美月のことを心配してるだけなのに、どうしてそんな扱いをするの?」

「どうして? さあ、どうしてかしらね」


 美月はそう言いながらベットから立ち上がり、足早に僕に近付いて来る。真顔で感情のない人形のように、近付いて来るその様子に恐怖を覚えた。感情なく只々近付いて来るその迫力が、増しているようだった。

 そして、僕の真正面にまで美月は来た。つま先とつま先がつくかつかないかの距離。近い、近過ぎる。仮面が目の前にあるみたい。


「ち、近いよ、もう少し離れて欲しいんだけど」


 僕がそう言うと、さらに美月は顔を近づけて来た。そして、額を僕の額にゆっくりと当てる。


「な、何?」

「しっ、聞いて」


 美月は息に近いような声でそう僕に囁く。僕でもギリギリ聞こえるくらいの大きさだ。そして美月が口を開く度に、僕に息が降りかかる。


「今は詳しくはどうしても言えない。彼がいるから。また後でちゃんと話すから。お願い、今は大人しく帰って」


 美月は目を固く瞑って、少しだけ頭を下げた。どうしてもそうしなくてはいけないようだ。美月が僕に対して下げるなど、珍しいにもほどがある。


(信じよう)


「分かったよ。帰るよ」


 僕は美月から離れ、医務室の扉へと向かう。


「藤堂さん、失礼しました。美月のこと宜しくお願いします。それでは」


 美月によって藤堂さんの姿は僕の位置からでは見れなかったが、多分混乱しているかもしれない。状況が変わり過ぎだから。

 そして僕は、医務室を後にした。これからは仕事だ。気持ちを切り替えなくてはならない。

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