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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
八章 名もなき人の行方
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フィデリタス

―図書館 昼―

 ゴンザレスに教えて貰った通り、階段を上って二階へと向かうと、すぐに生物関連の本棚を見つけることが出来た。

 そして、僕の求めていた事典はその棚の一番下にあった。年季の入った一冊の事典がどっしりと下で構えて、まるでこの棚の支配者みたいに見えた。

 それを手に取ると、少し埃が舞った。二階にあることと少し専門的な事典を読む人は少ないのかもしれない。


(問題はこっからだよね……どうやって探すか。覚えてるのは見た目だけなんだよね)


 僕は必死に記憶を辿る。その生物の見た目は至って普通の犬だった。

 しかし、飼い主にしか心を開かなかったその犬は、僕が頭を撫でようとしたら手に嚙みついた。それでしばらく犬が怖かった。

 でも、その犬がただの犬ではないことを理解したのは、言語を発しているのを偶然見てしまったからだ。そして、お婆様と一緒に楽しそうに食事をしていた。


(犬……どこにあるかな)


 目次を開いた。目線を下の方に落としていくと、哺乳類と書かれているのを見つけた。


(犬の仲間であるのなら、ここに載ってるかもしれないな。昔、学者の先生に犬は哺乳類だと習った記憶があるし)


 指定されている頁を開いて、そこから探し物を求める。こうやって見てみると、この世界には沢山の生物がいることが改めて分かる。哺乳類の所を見ただけで数百は超えている。多いからこそ、この事典もこんなに分厚いのだろう。

 それ故、中々見つけ出せず少し苛々としながら頁を捲った。


「あ」


 新たに開かれた頁には、犬の写真が沢山あった。ようやく見つけたと言う達成感で思わず声が漏れてしまった。

 そして、目線を動かすとその頁の右側に、濃い太文字で『主人に忠誠誓う気高く賢き犬フィデリタス』そう書いてあるのを見つけた。その下の説明文には『召喚(召喚方法は、生物召喚に基づく)で呼び出した者を主人とする。主人と同じ言語を使い、主人と同じ物を食べる。主人にとっての最善を考え行動する。人に近く人に遠い生物である。近年上流階級でよく飼われている』と書かれていた。


(召喚か。普通には出来ないんだな。生物召喚か、これもまた昔に一度やった程度だが出来るだろうか? 失敗すれば大惨事になりかねないし、一応人がいない所でやった方が良さそうだ)


 その生物の名前と見つけ方を理解出来た。ゴンザレスの助言もあって、そんなに探すのにも時間はかからずに済んだ。

 僕は事典をゆっくりと戻すと、階段を急ぎ足で下った。


(おっと、お婆さんはまだ眠っている。起こさないようにゆっくりと行こう)


 階段を下りた所で、お婆さんが気持ち良さそうにまだ眠っていることに気付き、先ほどと同じように忍び足で今度は扉へと向かった。

 そして、ちょうど受付の上にある時計に目をやる。


(まだ次の仕事まで三十分あるみたいだ……よし、美月の所に行こう)


 昨日、お酒を飲んで感情を爆発させた美月。何故、絶っていたお酒を飲んでしまったのか、どうしても聞きたい。でも、何かきっかけがないと飲まないような気もする。

 そして、僕は音を立てないようにゆっくりと扉を開ける。廊下に出て、ゆっくりと扉を閉める。地味に神経を使う行為だ。

 正直、先ほどゴンザレスが勢い良く走ったり扉を開けたりしても何ともなかったのだから、そんなに気にする必要などなかったのかもしれないが。

 

(走ろう)


 僕は、数歩進んでから美月のいる医務室へと走って向かった。

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