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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
七章 僕と影武者
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命の為に、国の為に

―空き部屋 夜―

 その光が消えた時、僕はゴンザレスの身に着けていた首飾りの宝石が粉々に砕け散っていることを確認した。

 そして、ゴンザレスは先ほどまで苦しみ悶えていたのが噓のように、穏やかな表情で眠っている。そんなゴンザレスの頭を彼女は優しく撫でていた。


――だから言ったでしょ? 彼女は一人でどうにか出来るって。ちゃんと解決してるだろう? 君だったらどうなってたのかなぁ?――


 その声が脳内で響いた瞬間、僕の目の前は真っ暗になった。


(え!? なんで?)


 窓から射し込む微かな月明かりだけが、この部屋を照らしていた。そこから、二人の位置などは確認することは出来たが、流石に表情までは読み取ることは出来ない。


(どうして……? 何で急にこんな?)


 先ほどはまるで電気がついていたかのような明るさだったのに、急に薄暗くなって混乱していた。何度もあの目が痛くなるような光は見たが、それが原因であるとは思えない。


(もしかして、あの声が関係しているのか? あの声が終わった後急に暗くなった訳だし……ねぇ、そうなの?)


 恐る恐る僕は呼びかけてみたが返答はない。かなり虚しくなって、自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。


(僕はいよいよかもしれない……)


「巽様」


 自分に呆れていると、あの謎の女性はゴンザレスの方を向いたまま立ち上がっていた。そして、僕の返答を待つことなく続ける。


「彼は……利用されていただけなのです。彼に悪意があった訳ではなく、悪意を持った者達が彼を使っていたのです。ですから、彼を許して欲しいのです。彼は、良くも悪くも素直です。聞けば自分の知っていることくらい答えてくれると思います。ですから……今まで通り、彼を影武者として扱って頂けませんか?」

「どうして、ゴンザレスに悪意がないと言い切れる?」

「巽様に理解して頂けるかどうか分かりませんが……簡単に説明させて頂きます。まず、あのネックレス……首飾りは、人の信じる感情を利用する為の物です。強制的に信じさせて、全てにおいて言いなりにさせる物……最低最悪の物です。それをどなたかから受け取った彼は、喜んで身に着けたのだと思います。それが恐ろしい物であるとは知らずに。あの宝石が光っている間が自分の意思を失っていた時です。何度か心当たりはありませんか?」


(心当たり……)


 僕の脳裏に浮かんだのは、上野城内で僕を待ち構えていたゴンザレス、そして式の途中で肉の塊を無理矢理口に入れて来た時、そして今回僕に容赦なく殴りかかって来た時……全て宝石が異常なほど輝いていた。


「あるな……」

「そうですか、もっと早く私が解決策を見つけていれば……こんな大きなことにはならなかったかもしれません。申し訳ありません。しかし、こうなってしまった以上、今から過去を変えることは出来ません。私も悪意持った者達に命を狙われている立場……そう何度も何度も近くに来ることは難しく、直接的に関わることが難しいのです。さらには、彼との関係も知られている可能性が高い……彼があの宝石から解放された以上、彼もまた命を狙われる立場になりかねません。それ自体に問題はありませんが、また彼が苦しむことに……ですから、徹底的に彼を鍛え上げて下さい。お願いします。間違いなく彼の強さは、この国の為にもなります。表向きは影武者として、本質的には彼の命の為に……無理を言っていることは重々承知しております。ですが――」

「勿論、元よりそのつもりだよ」


 僕は少し嘘をついた。表向きは影武者として……それは同じだ。でも、本質は国の為だ。国の為に、ゴンザレスには強くなって貰う。

 今までは、僕の影武者として使えるようにする為やってきたが、その本質を変える。


「ありがとうございます……」


 そう言って彼女は振り向いた。彼女の顔は、やんわりと月明かりに照らされていたのもあるし、目が慣れて、先ほどよりは明るくなっていたのもあって顔をしっかりと見ることが出来た。


(誰かに似ている……どこかで絶対に見たことがある……)


 そう思ったけれど、どうしても出てこない。もし、ここで彼女が何者であるか名前を言ってくれたなら、モヤモヤする気持ちは晴れるのだが。


「ねぇ、君は――」

「私は彼と巽様を命懸けで守ります。そして、この国もこの世界も……全て守り抜きます。それが私のやるべきことですから。ご迷惑をおかけして……本当に申し訳ありません」


 彼女は深く頭を下げた。その瞬間、彼女の姿は消えた。瞬間移動を使ったのだろう。


(彼女は一体何者なんだ? きっと、この部屋に来た時も瞬間移動を使ってやって来た筈……それなのに、一切の疲労を見せず魔法を使い、そして再び瞬間移動を使った……これがどれだけ体に負担が来ることなのか分かっているのだろうか? 相当鍛えているとしか思えない……それに、彼女をどこかで見たことがあると思ったってことは、僕は彼女を知っている?)


 考えれば考えるほど、話が難しくなっているように感じた。


(今はとりあえず……ゴンザレスの方をどうにかしようか。彼らには無駄に仕事をさせてしまったことにはなるが)


 僕はゆっくりと立ち上がって、すやすやと気持ち良さそうに寝ているゴンザレスの方へと向かった。そして、ゴンザレスを魔法を使い浮かせて、抱き抱えた。


(二回もやることになるとは……仕方ない)


「はぁ……」


 僕は小さくため息をついて、空き部屋を出た。

***

―? 隠れ家 夜―

「そうか、まぁ。あわよくばと思っていただけだったからね、まぁ、君が色々試せたのなら良かったよ」


 綴は一人、暗い部屋の中で何者かと宝石を通じて会話をしていた。その宝石は声が発される度に、それに反応するように紅く輝いていた。


「えぇ、しばらくは放置しようと思います。実験しただけですから。それと、あの女の正体……どうしても掴めません」

「そうかい。別にそれならそれでいいんだけどさ。君のプライドはどうだい?」

「ズタボロですよ。絶対に暴いて見せますわ、ウフフフフ……」

「君は本当に楽しそうだね。羨ましいよ。さてと……少し寒い場所でこれを使うのはキツイね。そろそろ切るよ」

「はい。お休みなさい」


 綴は、紅い宝石をポケットに入れると、鉄の扉へと向かった。その時、ちらりと部屋の方を見た。その目線の先に何があるのか、綴はどこか悲しそうに、そして愉快そうに歪んだ笑みを浮かべて、扉を開けた。

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