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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
七章 僕と影武者
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信じあう

―空き部屋 夜―

「あっ!」


 ゴンザレスに何かあったのか、彼女は何かに気付いたような声で言った。

 僕の位置からでは彼女の表情は勿論、ゴンザレスの様子も見ることが出来ない。だから、僕の勘で色々察して考えることが一番状況把握に適している。


「人形……そう人形なんです! 自分の意思で動くことをやめ、ただ相手の命令にだけ従って行動する……それは、人形です! 貴方は人形ですか!? 答えて下さい! 人形であるか、そうでないか――」

「さっきから人形人形うるせぇわ! ぶっ飛ばすぞ!?」


 最近までのただ低いだけの声とは違って、普段のうるさく軽いだけの声が彼女のまくし立てる声を遮った。


「やっと答えてくれましたね! 良かった!」


 彼女の声は、とても弾んでいる。そして、まるで子供のように飛び跳ねた。


「良くねぇよ! ばぁっ……う゛う゛……」


 威勢良く反論していた声が、突如苦しみに悶える声に変わった。


「大丈夫です! しっかりと自分を信じて……歯を食いしばって下さい! 根性があれば乗り切れます!」

「根性論かよっ……頭が張り裂けそうなほど痛い……! 何でっ!?」

「そのネックレスです。そのネックレスを外せればお話は早いんですけどね……無理に外すと命に関わります」

「はっ!? ぐぁああ……何でっ、そんな物を!」

「誰から貰ったんですか?」

「誰から? そんなこと今言われても頭ぐちゃぐちゃなのに、まとまんねーわ! てか、マジヤバい。死にそう。痛過ぎ! マジで根性でどうにかなんのか!?」

「自分を見失わないこと、自分の意思で人を信じること……それが大事なんです。今の貴方にそれは出来ますか?」


 彼女の声色は、憂いを帯びているように感じた。しかし、それに対してゴンザレスの返答はない。先ほどまでは、間髪入れずに会話をしていたと言うのに。

 すると、ドンッという鈍い音が部屋に響いた。その音の正体は床に倒れたゴンザレスが原因のようだ。ゴンザレスが床に倒れたことによって、ようやくゴンザレスの顔が見れた。

 そこで、明らかな異変に気付いた。ゴンザレスの目が、緑色に光っている。表情も苦しそうで、その場で胸を押さえて悶えている。


(ああいうのを見ると、何だかなぁ……ゴンザレスは僕だから、結局は僕があんな感じになってしまっているような感覚が……あ)


 ぼんやりと、ゴンザレスの顔を眺めていると僕はあることに気付いた。


(そうだよ。何で気付かなかったんだ。ゴンザレスは異世界の僕。つまり、この世界の僕に成り代われるってことじゃないか。どうして分からなかったんだ? 少し考えれば分かる単純なことじゃないか。影武者がいつの間にか本人になっている……そして僕はひっそりと消える。これが上手く行けば混乱なんて起こらない。僕が国の歴史を汚すこともなくなる……ゴンザレスは元の世界に帰れなくなるけど……話せば分かって貰える筈だ)


 自己中心的な考え方であることも、また誰かを犠牲にすることで安定を保とうとしている自分の愚かさにも気付いていた。

 しかし、そうしてでも国を守らないといけないのだ。


(さっき、あんなことを言ったのに……結局帰れなくさせてしまうのか、まだ決まった訳でもないけど)


 ゴンザレスは苦悶の表情を浮かべている。そんなゴンザレスを、彼女が大きな声で必死に励まし続けている。


「私を信じて下さい。お願いですから、もう一度」

「……俺を信じてくれるか? 俺を……」

「信じます。ずっとずっと後悔してたんです。ちゃんと伝えて、話していればって……だから」

「ありがとう」


 ゴンザレスが嬉しそうな笑みを浮かべ、そう言った。刹那、緑色の光が僕達を飲み込んだ。

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